2010年5月5日

議論後に議論前の結論に至ることにも価値がある


Colmar, France
「議論後に議論前の結論に至ること」といえば、鳩山政権だと思われているでしょう。そして多く人が、これを否定的にとらえていると思われます。しかし、民主党が政権をとったのは、まさにこれをやるためだったはずです。

このエントリでは、まず保守政権(=自民党)がやるべき事と、革新政権(=民主党)がやるべき事を整理してから、迷走を続けているように見える民主党の懸案事項である、普天間基地問題を取っ掛かりに民主党がやろうとしていることを考えていこうと思います。

保守は今の山を登り、革新は登る山を探す

去年日本では、戦後長らく続いた保守政権=自民党がついに倒れて、革新政権=民主党になったという構図があります。前者を右派、後者を左派とも呼べますが、いろいろな意味がついてしまっているので、無難に手垢のついていない言葉では、前者を既定路線派、後者を新規路線派と呼ぶとわかりやすいかも知れません。

保守と革新の話は、登山に例えると分かりやすいと思うので紹介します。国民はなるべく高いところに登りたいのですが、高く登るには二つの方法があります。一つは、傾斜が上に向いている方向に進むことです。こうすれば絶対に今より高いところへと進んでいくことができ、国民は満足します。もう一つの方法とは、今登っている山が一番高い山かどうか考えることです。歩みを止めて周りを見回して考えてみます。今登っている山より高い山があれば、そちらを登り始めます。高い山を見つけたとしても断崖絶壁では登れませんから、想像力を働かせて登れるかどうか考え、登るにはどうしたらいいか知恵を働かせる必要があります。

もうお分かりかも知れませんが、何も考えず傾斜が上に向いている方向に進むのが、保守政権=既定路線派で、歩みを止めて周りを見回して考えをめぐらすのが革新政権=新規路線派です。日本は戦後60年、傾斜が上になっている方向にだけ進んでいけば良い時代でしたが、もうそろそろ自分が登っている山が一番高いか考えなおす時代が来ているのです。重要なことは、とにかく高い方へと登山している人から見れば、歩みを止めて自分が登ってきた山が一番高いかどうか考え直している人は怠慢にしか見えません。また、その山より高い山が見つかって今登ってきた山を降り始めれば、状況が悪化しているようにしか見えません。

下山しなければならない状況では「市民が望んでないことを実現するリーダーが必要 このエントリーを含むはてなブックマーク」で書いたような、民意を汲まないリーダーが必要とされます。なぜなら、幕末の開国や、欧州の統合などの既存の枠組みを変えた試みでは、リーダーが現実を変えた後に大衆の意識が変わることが常だからです。

「普天間、善意による混迷」

この見出し(↑)は、普天間、善意による混迷 - リアリズムと防衛を学ぶ 普天間、善意による混迷 - リアリズムと防衛を学ぶから借りてきました。このエントリには以下のようにあります。
そして挙句の果てに落ち着いた政府案は、政権交替前の旧案を手直ししたもので、結局沖縄県内となりました。
これは、登山の比喩で考えると何の問題もありません。歩みを止めて周りを見回して見た結果、自分たちが登ってきた山が一番高かったので再び登り始めたということです。議論して検討した結果、元の結論に戻ることは何の問題もないのです。むしろ議論なしに話を進めてきた結果が、結局正しかったことがわかって安心するぐらいのものです。

しかし、「台湾海峡での有事に飛ぶには沖縄が都合がいい」ぐらいの論理を鳩山首相が気付かなかった可能性はありえません。僕でもわかるぐらいですから。僕は、政治を専門に勉強したことも無い理系の学生で、衆議院議員の立候補はおろか政治活動に携わったことがもありません(そもそも被選挙権25歳から2年ちょっと経ったぐらい)。片や鳩山首相は衆議院議員当選8回の大物で、何十年も政治だけを専門にやっています。さらに理系の博士課程で悪戦苦闘している僕と、既にスタンフォード大で理系のPh.D取得済みの鳩山首相では知性の点でも比べものにならないでしょう。客観的に見て僕にもわかるようなことは、鳩山首相には立ちどころにわかっているはずです。

そう考えると、今回の鳩山首相の行動は意図があってやっているに違いありません。この場合考えられるのは、普天間では混迷させることそのものが目的だった可能性です。鳩山首相は、対米従属という日本が60年間一環して登ってきた山で歩みを止めて周りを見回してみたのみならず、もう既に下山し始めていると言った方がいいでしょう。「対米従属を止めました」というのは多方面に角が立つので、それ以外の方法でやるとなれば、事態を混迷させるのが賢明です。移転移転と騒ぐってことはぶっちゃけ基地は邪魔ですって言っている解釈していいでしょう。こういうふうに考えると、普天間、善意による混迷 - リアリズムと防衛を学ぶで言われているように、「善意の愚者が意図せず事態を混迷させてしまった」と解釈されるのが鳩山首相にとっては最も都合が良いことです。つまり、下山してしまっているのは、わざとではなく、愚かゆえの失敗だと言う印象を与えられるからです。角が立たない聡明な方法だと言うしかありません。
この案を敢えて再検討を試みたのは、たとえ面倒事を起こしてでも沖縄の負担を軽減したい、という善意の気持ちゆえだったのではないか、と私は思います。

四年間いろいろ考えてみればいい

普天間問題だけで終わってしまうと、ただ単に対米従属反対を言っているように思われてもいけないので、鳩山政権の懸案事項も同じ構図で触れておくことにします。

例えば、事業仕分けは、60年前に登ると決めた科学立国という山を登るために必要な、膨大な研究費をすべて出す必要があるのか検討しています。研究者としての立場からすると、研究費が減らされるのは困りますが、その研究が必要であることが主張できないようでは減らされてもしょうがないと思います。逆に、周りを見回してみた結果、全てのプロジェクトが日本にとって必要不可欠であることが分かれば、自民党時代と同じように全てのプロジェクトにお金を出すことになります。それは、議論の失敗ではなくて、すべて必要なことがわかったという成功です。議論後に議論前の結論に至ることにも価値があるのです。

友愛の話でも、子ども手当ての話でも自民党時代に決まった既定路線を見直して新規路線を作り出す努力をすることは今の日本に必要なことではないでしょうか。議論後に議論前の結論に至ることになっても、既定路線が正しかったことが分かればそれはそれで進展です。4年間ぐらい試行錯誤してみればいいのではないでしょうか。

追記:
鳩山さんが首相であり続けることが国家安全保障上の問題: 極東ブログ 鳩山さんが首相であり続けることが国家安全保障上の問題: 極東ブログとその反応を見る限り、今まで登っていた対米従属の山が最善だと信じている人が多いように思います。そうすると、違う道を探すこと、または下山することを状況の悪化としか認識できないでしょう。普天間基地問題は、愚者が意図せず失敗したと言う視点以外で、見てみる必要があるように思います。
追記2:
鳩山発言にネットユーザー失望! 「鳩は平和じゃなく馬鹿の象徴」 - ガジェット通信 鳩山発言にネットユーザー失望! 「鳩は平和じゃなく馬鹿の象徴」 - ガジェット通信を見ると鳩山首相は馬鹿って言うのが、大方の見方なんでしょうかね。もう一度言っておきます。→「善意の愚者が意図せず事態を混迷させてしまった」と解釈されるのが鳩山首相にとっては最も都合が良いことです。

続きとして、普天間基地問題に関して寄せられた反応を見て、認識のズレを分析して 紹介しようと思います。ずれてるポイントは1)首相は馬鹿、2)普天間は大問題、 3)迷走を世界が笑ってる、です。→普天間基地問題における三つの勘違い このエントリーを含むはてなブックマーク

13 comments:

匿名 さんのコメント...

登るべき山が正しいかどうか確認してる間に体力を消耗し
登山も下山も出来なくなったとさ

NGT さんのコメント...

外交戦略は常識的な路線(親米路線)で行った方が良いと個人的には思っています。
他の山を具体的に列挙しないで「親米路線は最適じゃないかもよ」じゃあ外交に関する民意を混乱させるだけで不誠実だと思うんですが…

Madeleine Sophie さんのコメント...

NGTさん、
そうですね。僕もそうとも思いますが、僕は外交戦略に明るくないので、僕よりも明らかに正しい判断が出来る人の意見を尊重します。沈みゆく帝国も簡単に日本を捨てられませんから、欧州、中国、米国と均等な位置を保つ好機ともいう可能性も考えられますね。

unharmed さんのコメント...

日本人の感覚っておかしいよね。
僕もその一人ですが。

① 戦争で侵略した国(中国・韓国)に対して、今も大多数が差別意識を抱えている。
これはネットから判断すれば、容易に分かるかと思います。

② そして、原爆投下をし、日本国民を黒焦げにしたり、今も後遺症で苦しめている国(アメリカ)の事を右翼は崇拝している。


③ 教育面では、正しい歴史を教えず、自国の都合の良い情報操作。
(これも、マスコミの異常な小沢さん批判、民主党批判を見れば容易かと)


④ 時代錯誤な皇室の存在。欧米先進国では有り得ませんよね?
今も半数近くの国民が崇拝しているとか…。


情報通のSophieさんにお聞きしたいのですが、これほど異常な国が欧米先進国に存在するのでしょうか?
フランスではこんな問題が起きたことなど無いと思うのです。
これらの根本はやはり、欧米先進国の民度の高さが直結しているのでしょうか。

私は今回の記事においては、東アジアの国々に謝罪をした上で、アメリカから距離を置き、関係を深めていったほうがいいと思います。

民主党は、関係の改善を急ぐばかりに、そこへ至る道筋を誤っていると思います。
普通に、いじめっ子がいきなり仲良くしてきても、反感を買いますよね?

こういった日本人の常識感覚の欠乏が、日本国の国際的地位の低さに関わっているんでしょうね…。

日本人が正しい姿に変わる事を望んでいます。
Sophie さんの今回の勇気ある発言はご立派です。
自国を批判できる人こそが、真の愛国者なんですから。

匿名 さんのコメント...

>戦争で侵略した国(中国・韓国)
中国や韓国は国際法に基づいて進駐・併合した。侵略はしていません。
日本が侵略行為を行ったのは米国に対してのみで、東京裁判もその侵略行為を裁くために開かれたのです。


>(アメリカ)の事を右翼は崇拝している。
左翼は中国やソビエト、北朝鮮を崇拝していますね。
民主主義国家の国民として恥ずかしくないのかな?


>時代錯誤な皇室の存在。欧米先進国では有り得ませんよね?

日本は立憲君主国。欧州にも立憲君主国はたくさんありますね。

匿名 さんのコメント...

>「台湾海峡での有事に飛ぶには沖縄が都合がいい」ぐらいの論理を鳩山首相が気付かなかった可能性はありえません。僕でもわかるぐらいですから。

この冷戦が終結したにもかかわらず未だに盲目的に信じられている、沖縄の基地イコール抑止力という、これまで目指していた山頂から疑問に思うべきじゃないかと思います。本当に沖縄に基地がなければ日本は防衛できないのか?沖縄に基地がなくなったら中国が沖縄に攻め込んでくるのか?ナンセンスですね。日本を攻めようと思ったら、まず東京、日本全国の原発施設を攻撃しますね。沖縄に基地があることでこの攻撃から守ることができるんですかね?特に地上戦で威力を発揮する普天間の海兵隊はどうやってこういう攻撃から日本を守れるんですかね?また、海兵隊は本当に日本を守るために、日本が攻撃されたときをシュミレーションして訓練してるんですかね?

結局、沖縄に基地があるのは、沖縄がアメリカに占領されていたことの名残でしかないんですよ。アメリカにビビッてアメリカに物をいわず、それを抑止力という言葉で正当化してきたのが今までの政府です。空気を読まない鳩山だからこそ、ここではっきりアメリカに対して物を言って欲しかったですね。それがまさに鳩山に求められていた別の山を探してみることだったと思います。その別の山の方が相当厳しい山になることは確かでしょうが、日本が独立国家として威厳と誇りをもつならあえてその高い山を目指して欲しかったですね。

ちなみに、私はアメリカに住んでいますが、普天間のことなんて誰もしらないし、ニュースにもなってません。米軍基地を縮小したら日米関係が悪化するとこれまた盲目的に信じられていることにも疑問を持つべきですね。

匿名 さんのコメント...

右翼は米を崇拝しているんでしょうか。私の目には鬼畜米をいまだ続けているように見えます。

問題として安全保障を日本独力で確立できるのか。できなければ、どこと組むのがやりやすいのか。それが米国というだけでは。米国より中国と組むほうが日本にとっていいのなら、世論はそっちに傾くと思います。

etherealcat さんのコメント...

unharmedさん

やや蛇足だと思いますが、私無学ゆえ多くの疑問点がございます。
補足、御教示いただけないでしょうか・・・。

>① 戦争で侵略した国(中国・韓国)に対して、今も大多数が差別意識を抱えている。
インド・台湾・東南アジア・ハワイについてはどうでしょうか?
また、欧米諸国では旧植民地に対する差別は皆無なのでしょうか?

>② そして、原爆投下をし、日本国民を黒焦げにしたり、今も後遺症で苦しめている国(アメリカ)の事を右翼は崇拝している。
私の祖父は被爆者です。米国のしたことは許せませんが、=現在も米国を憎む であってはならない。
それは如何なることに対してもです。憎しみの連鎖を断ち切ることは平和主義の基本だと信じます。
よって必要であれば、日米同盟は支持します。

>③ 教育面では、正しい歴史を教えず、自国の都合の良い情報操作。
どこがどのように間違っているのでしょうか。科学的根拠を伴って御教示いただけないでしょうか・・・。

>④ 時代錯誤な皇室の存在。欧米先進国では有り得ませんよね?
イギリスやオランダやスウェーデンやスペインの王室は有り得ないことになってるんですか?
ローマ法王の葬儀にはフランス大統領を始め、欧米大国の首脳がいましたよね・・・。


議論の本筋から外れてしまいますのでここで止めておきます。
コメ汚し失礼致しました。。

匿名 さんのコメント...

① 戦争で侵略した国(中国・韓国)に対して、今も大多数が差別意識を抱えている。
>イギリス人がアフリカやアジアに対して、アメリカ人がベトナムや中東に対して、本当に差別意識を持っていないと思いますか?
問題だとは思いますが、決して日本だけの話ではないですよ。

② そして、原爆投下をし、日本国民を黒焦げにしたり、今も後遺症で苦しめている国(アメリカ)の事を右翼は崇拝している。
>崇拝なんてしてません。現実的な力関係を考慮して大人の対応をしているだけです。中国だろうと印度だろうと、超大国になったところと上手く付き合っていくだけでしょう。

③ 教育面では、正しい歴史を教えず、自国の都合の良い情報操作。
>日本の教科書は中国や韓国に比べて客観性があるという、欧米での調査結果が出ていますが?

④ 時代錯誤な皇室の存在。欧米先進国では有り得ませんよね?
>イギリス、デンマーク、オランダ、スウェーデン、ベルギー……無知にも程がありますね。

shirocha さんのコメント...

livedoorのコメント欄に書き込んだ者です。

論理的な思考・文章は読んでいて気持ちが良いものですね。

それにしても、文章を読んでいるとは思えないコメントには辟易します。

啓蒙のため、これからも書き続けてください。

匿名 さんのコメント...

試行錯誤どころか、碌に検討もせずに話をブチ上げるのは迷惑なだけで
何の価値もありません。

派手に失敗するだろうと予測されている事を想定通りに全て失敗する事に
価値があるというのはどういった理論なのでしょう?

愚かな実験に国を巻き込むのは勘弁して下さい。

ishbash さんのコメント...

批判コメントが多いと聞いて不思議に思って見に来ました。

面白いエントリだと思います。政治は虚々実々の世界ですから、今回のことが対米政策の方向転換を考えてやっている確信犯的行動だということも十分あり得ることでしょう。もしそうだとしたら、振り回される側の人間としてはたまらないでしょうが、思い切った方向転換を行うには、そのくらいの手管が必要かも知れません。

ただ、問題があるとすれば、今回の問題で政権が恐ろしいほど支持率を下げているということです。違う山に登ることを検討して、実際に米軍基地を無くすくらいの大きな方向転換をやってのけるのであれば、それだけの犠牲を払う価値もあるでしょうが、それと分からないようにこっそり山を下り始めるという程度の成果に比べれば、犠牲が大きすぎるのではと素朴に思わざるを得ません。

もし確信犯的な行動だとしても、それに対する世論の反応は大誤算と言えるほど大きかったのではないかと懸念しています。

実は、鳩山さんがいろんな人の意見でひらひらと態度を変えてみせるというのは、面白いなと思いながら見ています。今までは裏ですべてを決めておき、表には一致した姿を見せるのが日本政治のあるべき姿とされてきましたが、鳩山政権では表で調整までやってしまっているようにも見えます。一種の可視化?ひょっとすると、高度に劇場化された行動なのかも知れませんけどね。

川面を眺めながら さんのコメント...

面白いエントリ、興味深く読ませていただきました。

やはり、ある程度の距離感を持って現実的に考えると、こういった冷静な論を立てられるなあ、と思います。

実際、新政権を立てた鳩山さんの立場なら、戦略的な芝居をうてる筈ですからね。迷走を装う虚々実々の駆け引きも十分に可能です。

しかし、日常的に日本でニュースを見ていると、「鳩山さんには深慮遠謀がある筈」と信じる向きが少なくなっている事も納得できます。

ishbash さんの仰るとおり、
>分からないようにこっそり山を下り始めるという程度の成果に比べれば、犠牲が大きすぎるのではと素朴に思わざるを得ません。

Madeleine Sophie さんの『「善意の愚者が意図せず事態を混迷させてしまった」と解釈されるのが鳩山首相にとっては最も都合が良いことです。』に私も同意なのですが、芝居は良くても演技、或いは役者に、何かが足りなかった、というところでしょうか。

もうひとつ、現実主義者が判断を誤り易いのは、「彼も現実的に考え、判断し、行動する筈だ」と信じている時だということも、忘れる訳にはいきません。「わかっている」が人によっては川の両岸ぐらい離れていることも度々経験させられる事ですからね。

鳩山さんが、Madeleine Sophie さんと同じ「わかっている」側であるとよいのですが。

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