2010年4月26日

共通言語による親近感が国家の代わりになる


Eze, France
前エントリでは「大陸の人は国家は気持ちの持ちようだと思ってる このエントリーを含むはてなブックマーク」と書きました。人が人に感じる親近感を国家が成立していることへの根拠にしようという話でした。それでは次に、人が人に抱く親近感は何によって影響される割合が多いのかということが重要になってきます。これはフランスでは既に答えが出ています。フランス人はフランス語を喋る人に親近感を抱きます。もう少しいうと「フランス語をしゃべればフランス人として扱われる」と言えます。

日本では「日本語をしゃべれば日本人として扱う」とは言い換えられませんから、日本とはだいぶ違う感覚のように思われます。世界の多くの国は大陸の中で分割された土地にあるので、どちらかというとフランス人の感覚に近いのではないでしょうか。このエントリでは、人と人との関わりに言語が及ぼす影響について書いていきます。

フランス語をしゃべれはフランス人として扱われる

「フランス語を話せばフランス人として扱われる」というのは、完全に正しいとは言えませんが、フランスでは日本に比べるとこの傾向が強いです。なぜこういう事が起こるのかというと、フランスではフランス人同士において、人種や容姿や宗教、慣習、振る舞い方などの共通項が少ないため、言語がアイデンティティに占める割合が増えるからです。

このブログ を始めた2週間後にこういうふうに書いているので、参考にしてみてください。
フランスにおける言語の重要性 このエントリーを含むはてなブックマーク
フランス人はというと、白人、黒人、アジア人といった容姿の人が混在しているので、見た目では判断できません。また、宗教もカトリック、イスラム教などな ど広く普及しているので、普遍的な文化的な共有もありません。当然、両親や祖先の前提も何もありません。そうすると、必然的にフランス人というアイデン ティティにおける言語の割合が相対的に増えます。つまりフランス語をしゃべればフランス人という状態になります。もう少し正確に言うと、フランス語をしゃべればフランス人と見分けがつかなくなるということです。
これは、去年行われたCSA-パリジャンの調査でもハッキリしています。回答者の8割がフランスの国家アイデンティティはフランス語と答えたのでした。
Identité nationale: 60% des Français pour un débat: ParisMatch.com
(国家アイデンティティ:60%のフランス人が議論を支持)

60%のフランス人が国家アイデンティティの議論を支持しているとCSA-パリジャンの調査で示された。国家アイデンティティで最も多かったのは、回答者の80%が支持したフランス語、次いで共和国64%、次に三色旗63%、政教分離61%、公共事業60%、国家マルセイエーズ50%、移民受け入れ31%と答えた。

親近感を左右する共通言語

「フランス語をしゃべればフランス人」という感覚は、結構おかしな話です。僕はフランス語をしゃべっているときにも、フランス人になったとは思っていませんし、何語をしゃべろうとも日本人という意識は抜けません。しかしこのときでも、相手は自分の母国語をしゃべる人に対して、親近感を持つのです。もう少しぶっちゃけて言うと、この人とは分かり合えるかもしれないという思い込みがかすかに生まれる感じです。これはどんなに理屈くさい大人でも起こる普遍的な現象のように思います。というのもこれは人間の深いところに刻まれた刷り込みのようなものだからです。

例えば、知り合いの娘で4ヶ国語をしゃべる少女に合ったときの話です。ちなみに欧州ではこれぐらいはよくあることです。彼女の場合も、日本人の母とイタリア人の父の間に生まれ、家庭内の会話は英語、ベルギーに住み幼稚園ではフランス語を習います。少女は4ヶ国語をしゃべり、母親には日本語、父親にはイタリア語、幼稚園の先生にはフランス語と自然に使い分けます。僕と少女の間には3ヶ国語で意思疎通をする手段がありました。

知り合いに誘われ、その家庭には何日かおじゃまさせていただきました。少女とは散歩ぐらいはするけれども、僕が用があるのは両親なので、少女にはあまり構っていませんでした。少女のほうもいきなり家に見たことのない両親の友人が現れたら、少し警戒があるのは当然かもしれません。少女とはそれほど関わり合いがないまま、最終日を迎えました。最終日の帰る時間を待っているときに手持ち無沙汰で、少女の持っている日本語の絵本を読んであげることにしました。そして日本語で2,3冊読んだ後の彼女のなつき様は、ちょっとびっくりするぐらいでした。ひざに乗ったり、ぬいぐるみで遊んだり、さらに別れるときにはさみしくて泣かれるほどでした。

おそらくベルギーに住む彼女に日本語をしゃべりかけてくる人は母親を除くとそれほど多くないはずです。母親以外に日本語で絵本を読める人がいたのはちょっとした驚きのはずです。母親と同系統の言語を操る人の存在に安心したとか、親近感を感じたということがあるような気がするのです。

分かり合えるかもしれないという思い込み

自分が物心ついたときから母親が使っていた言語を使う人に対する親近感というのは、大人になっても一定の影響があるように思います。言い換えるなら、この人とは分かり合えるかもしれないという思い込みです。例えば日本人と日本人であれば、一言交わせば分かり合えるとか、目と目を見つめるだけで分かり合えるような気になる感覚が近いです。日本人とでは起こり、外国人とでは起こらない感覚があるなら、まさしくそれが親近感、もしくは分かり合えるかもしれないという思い込みです。これが、共通言語によっても引き起こされます。今後世界が相互理解を深めたとしても、共通言語による分かり合えるかもしれないという思い込み感覚は、最後まで残るでしょう。

大陸の人は国家は気持ちの持ちようだと思ってる」ではフランス人は親近感を国籍の根拠としていました。中国人は、誰を信用するかは国籍と関係ないとしています。どちらも、自分の中に引き起こされる気持ちを重要視していることに変わりはありません。自分の中に引き起こされる感覚が共通言語によって左右される割合が大きいとすれば、国籍や今後国籍に取って代わる概念でも、言語が重要な要素になってくるのです。

最後に、共通言語をしゃべる人間に親近感を抱かざるを得ない人間の特性を理解すれば、言語を習得するメリットがひとつわかりやすくなります→言語を習得することによるネイティブとの心理的距離の接近させる効果を書いたエントリ「留学するのにフランス語は必要か」など。

また、英語が得意な人でも母国語をしゃべる魅力にはどうしても勝てません。こう理解すれば、「他人に英語をしゃべってもらうのは大変」で述べたように、相手にいつでも英語を期待するのは心理的負担が大きいことがわかります。

関連
感想
エントリの内容と関係しないのですが、CSA-パリジャンの調査で驚くことは、フランス人の6割が国家アイデンティティの議論に賛成というところです。ということは4割は議論に不賛成なのです。おそらくこれ は、国家アイデンティティを議論した結果、国家が定めるアイデンティティの公式見解が定められた結果、それらを支持しない人々への差別を助長してしまう恐 れがあるからでしょう。フランス共和国憲法の定めるところの「フランスは、非宗教 的、民主的、社会的な、分割し得ない共和国」という原則を守るため、国家アイデンティティの議論に不賛成という立場もありえます。

もう一つびっくりするのは、「移民受け入れ」を3人に1人がフランスの国家アイデンティティと回答していることです。「フランス の移民政策は成功しつつあるという認識 このエントリーを含むはてなブックマーク」 のように文化が混じり合って共通の価値観を作り出したという自負なのかも知れません。もしくは自身が移民、親族が移民、友人が移民などなど移民の受け入れ を国家アイデンティティとする土壌があるのかも知れません。

3 comments:

花園 祐 さんのコメント...

 ベルギーで別れ際に女の子に泣きつかれるなんて、色男ですね。

 本題の言語による親近感ですが、一読してこれは国家の統合政策が進んでいるかどうかが分かる指標のような気がします。日本も明治時代に小学校を作って国語の統一化を図りましたが、この言語の統一こそが国民の国家意識をまとめる上で重要な役割を果たしたと聞きます。
 ただ日本では言語以上に戦前の天皇観のように思想の統一が重要視されたため、日本語が話せるからって日本人だと考えないのかもしれません。

keimachi さんのコメント...

はじめまして。
言語で生まれるアイデンティティとは、日本における方言みたいなものでしょうか。地方ごとのスケールに直してみれば、○○弁を喋れば○○出身、という言い換えができますね。前エントリの中国、日本、フランスとも人口のスケールが違いますから、妥当なところだとは思うのですが、そう考えるとヨーロッパの多様性は面白いですね。
フランス語は、スペインやポルトガルほどではないにせよ、海を渡った国外でも母国語として話されていることも興味深いです。

Sophie さんのコメント...

花園さん、
そうきましたか。。
日本人が考える日本人の条件というのはいろいろありますからね。日本語だけじゃないというか、調和を重んじる心とか考え方まで含む時がありますからね。

keimachiさん、
はじめまして。
欧州の多様性は面白いですよね。欧州には、これからの時代に重要なことが詰まっているように感じています。ブログも宜しくお願いしますね。

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