2010年2月11日

フランスのエンジニアは社会的地位が高い


Gordes, France
フランスはエリートと庶民が日本よりもはっきりと分かれている国です→「フランスで将来リーダーになる運命を感じて成長する人たち このエントリーを含むはてなブックマーク」。このエリートはほとんど全てがエンジニアです。エンジニアではないエリートとしては、医学・法学・神学の分野にはグランゼコールが存在しないため、医師や弁護士、聖職者が含まれます。

エンジニアの養成には、グランゼコールと呼ばれる特別な学校が用意されています。グラン(大きな)エコール(学校)という名前ですが、大衆教育を目的とする大学とは全く違うシステムになっています。トップのグランゼコールは、学生2人につき教授が1人つくというような超少数精鋭のシステムです。本ブログではLe pointという雑誌のグランゼコールランキングを技術系→技術系のグランゼコールと商業系→商業系(MBA)のグランゼコールにわけて紹介してあります。

フランスのエリートは数学重視

フランスで将来リーダーになる運命を感じて成長する人たち」でも述べましたが、フランスでは20歳で上位のグランゼコールに入学すると将来のリーダー候補になり、それ以外の人は、お気楽な人生を歩むことになります。20歳で決定した順位付けがその人の人生の大部分を決するシステムです。そして、その順位付けの大きな部分を占めるのが、数学なのです。人工知能学会誌に投稿された「理科系の国フランス : INRIA滞在記(グローバル・アイ)」という記事には、日本では文系に分類される学科でも数学が必要であると書かれています。
実は「数物重視」の風潮は現在でも連綿と続いており、大学入学資格であるバカロレアではカテゴリ「数学・物理」が最難関すなわち評価が高いとされている。これはエリート校に入るには数物が必須であるということで、日本では文科系に分類される政治・経済の分野においても、政治家や経営者の卵が学ぶ「高度商業 学習校 Hautes Etudes Commerciales」に入るには数物のバカロレアが必要だという。
フランスでは数学ができないとエリートになれないと言っても過言ではありません。

例えば、カルロス・ゴーン氏は20歳で最上位のグランゼコールに入学し、その後ミシュラン入社から3年目(27歳)で工場長、入社7年目(31歳)でブラジル・ミシュランの社長、入社11年目(35歳)で北米子会社の社長とCEOという出世をしています。彼が絶え間ない努力で人より優れた能力を獲得したことは間違いありませんが、彼の出世ももとを正せば20歳の頃に誰よりも数学ができたことによるとも言えます。彼の著作にも数学に優れていたことが書かれていました→[書評] カルロス・ゴーン経営を語る

エンジニア天国、フランス

エリート・エンジニアを養成するグランゼコールの地位が高いので、当然エンジニアの社会的地位も高いのです。上で紹介した「理科系の国フランス」には、シンプルに以下のように書かれています。
ともかく「エンジニア」様になるというのはこれはたいへんな栄誉であって、企業の重役への階段をのぼるためには最低エンジニアが必要といったところである。
フランスの状況は、企業のトップの殆どが文系である日本とは大きく違って興味深いのではないでしょうか。以下の記事では、エンジニアを頂点とする序列と、頭の良いやつはエンジニアに成るはずだと言う思い込みが描かれています。僕には経験がありませんが、有り得そうな感じかも知れません。
パリに行って幸せになる方法:学歴社会フランス

フランスの大企業の社長の85%以上は、グランゼコールのエンジニア達によって占められています。

普通の会社員になる為には大学卒では明らかに学歴不足です。一般の会社では1.エンジニア、2.エコル・ド・コメース、3.大学というピラミッドが出来上がっています。
...(略)...
ある日、会議で(エンジニア出身の)その上司と二人っきりになったとき、もうすぐ退職する他の同僚の話になりました。その同僚のことは上司もかなり高く評価していましたが、そのコメントに思わず耳を疑いました。「彼は才能あふれた、とても素晴らしい人だったよね・・・エコル・ド・コメース出身だっていうのに」エンジニアの私の上司からすると、エコル・ド・コメース出身で頭のいい人など存在しない(!)のです。
びっくりですね。とりあえず、「フランス語は数を数えられない」と言った政治家には反省してもらいたいですね。

フランスでエンジニアの社会的地位が高い理由

フランスでエンジニアの社会的地位が高い理由としては、フランスが農業国から工業国への転換を図った時期に、エリートエンジニアたちの貢献が大きかった点が広く知られているからという説明があります。TGV、エアバス、コンコルド、原子力、アリアンロケットなど、鉄道、航空、宇宙、エネルギー産業での技術的成功はエンジニアによるリーダーシップによるところが多いのです。

でも、それでは工業でやってる日本との違いが説明できません。やはり、エンジニアの社会的地位の違いは、社会の構造の違いによるんだと思います。フランスでは大部分の人は気ままに暮らし、一部のエリートがすべてにおいてリーダーシップを発揮します。そうすると自然にリーダーが全てを決定し、庶民はリーダーの指示通りに働くことになります。そういった場合、実際の業務を把握する実学志向のリーダーが求められます。反対に日本では、フランスと比べると全員の能力が均一で、庶民が猛烈に働きます。自然にリーダーが全てを決定して指示を出す重要性が低くなります。よって日本では、業務の全てを仕切る能力を持つリーダーではなく、いわゆる徳のあるリーダーが求められる傾向があります。

エントリと関係する感想:
(軍隊で例えると、フランスは「優秀で全てを取り仕切る指揮官と士気の低い兵隊」と例えられ、日本は「細かい指示を出さない徳のある指揮官と士気の高い兵隊」と例えられます。フランスの優秀な指揮官が日本の士気の高い兵隊を率いると凄いパフォーマンスをたたき出して、逆に日本の徳しか無い指揮官がフランスの士気の低い兵隊を率いると悲劇的な組織になりそうです。前者はゴーン氏が倒産寸前だった日産を立て直した例で、後者の例は幸運なことにまだ無いのかな...?それと、優秀な指揮官と優秀な兵隊の両方を自前で用意できる(連れてこれる)国をアメリカって呼ぶのかなと思います。)

10 comments:

花園 祐 さんのコメント...

 中国も基本的に理系社会で、日本では社長や政治家はみんな文系出身だよと言ったら、「信じられない……」ってな顔されました。恐らく、文系がこれだけ幅利かせているのは日本とアメリカくらいなものなんじゃないでしょうかね。

 社会的には日本は文系社会ですが、国家的にはやはり理系の人材を欲しがるために教育上では理系優遇がされていると、私の通っていた中学の国語教師は言っていました。実際に自分の体験でも、数学や物理が出来る高校生は、「天才だ!」と周りからもてはやされますが、歴史や古典がやけに強かった私は終始、「マニアだ!」と言われて、科目が違うだけでこれほど差があるのかと、ちょっとしげてました。

masatoi さんのコメント...

日本で理系の待遇が悪いのは,理系の仕事が文系の仕事よりも本質的に面白く,やりがいがあるためだと聞いたことがあります.
モノ作りが最たる例ですが,面白い仕事はどれだけ薄給でもやりたがる人がいるため経営者はギリギリまで給料を抑えることができるということです.理系労働者が自発的に超過勤務をするのもこのためではないかと思われます.

理系の仕事は文系には難しく,文系の仕事は理系にもできるという理系上位の関係にあるので,個人的にはフランスや中国の状況が合理的だと思います.

にーと さんのコメント...

フランスに留学されている人に聞くのも失礼かも知れませんが、グランゼコール出身者がフランスで主に責任のある地位を占め、大学卒では明らかに学歴不足だとすると、グランゼコールに行かない外国人はフランスで仕事を求めても条件のいいものには就けないということでしょうか?ケース1はブログ主さんのように、海外(日本)の大学 or 修士課程を卒業してフランスの大学院というグランゼコールではない学校に進学したケース。ケース2はそもそもフランスの教育に乗らなかったケース(他の国の高等教育機関出身者)。純粋に気になるので、ご存知でしたら教えて下さい。

さて「masatoi さんのコメント...」ですが「日本で理系の待遇が悪いのは,理系の仕事が文系の仕事よりも本質的に面白く,やりがいがあるためだと聞いたことがあります」とありますが、1871年の工部省文書で「事務官僚に比べて技術官僚は、その地位を卑しうし・・・・・」と書いてあるのが嚆矢だという説があります。明治維新直後に国家の政策として理系は軽視(卑しい地位)していいということになったのです。

Noritama さんのコメント...

法学のグランゼコール、ボルドーにありますよ。
http://www.enm.justice.fr/
グランゼコール、といっても検事コース、ということですが。

あの、ダチ元法相も同校出身なのは有名ですよね。
参考まで、失礼しました。

よい週末を、お過しください。

bn2islander さんのコメント...

>工業でやってる日本との違いが説明できません。
>やはり、エンジニアの社会的地位の違いは、社会の構造の違いによるんだと思います

フランスのエンジニアは少数精鋭だから希少価値が高く、日本のエンジニアは数が多いので希少価値が低いと言う事ですね。すべては需要と供給の関係で説明可能だと、私も思います。

たとえば、日本中の工学部の定員を十分の一に減らせば、工学部を卒業した人の社会的地位は相対的に高くなるでしょうが、日本の方々がその様な施策を受け入れるかどうかは、微妙なところがありますね。

国家の政策としてフランスは少数のエンジニアに高度な教育を課す事を選択し、対して日本は大量の工学士を輩出する事を選択したという事だと思います。質を取るか、量を取るかというアプローチの違いがあると思います。

匿名 さんのコメント...

私にはフランスでエンジニアの二人の子がいます。彼らは、日本語のエンジニアや英語のエンジニアという言葉は、フランスではTechnicienに当たるもので、日本やアメリカではエンジニアというと過小評価されやすくて不利だといっていました。フランス語のエンジニアはずばり管理職候補で、数学能力の他に、2年間のプレパを生き残れるだけの精神力と体力があるという証明だそうです。確かにどんな優秀な若者でも、プレッシャーに弱かったり体力のない者ははじかれます。だから、新卒で経済系の同じポストについても、経済のことを何も知らないエンジニアの方が最初から年俸が違います。たとえば、エンジニア4500ユーロ、エコール・ド・コメルス4000ユーロ、経済学部のマスター出身者3500ユーロなど。でも、実際、エンジニア出身の人は、徹夜でも週末でも必要なら仕事するので、もとが取れるようです。

匿名 さんのコメント...

日本の場合は、士農工商の工、というか職人のイメージが影響していると思う。

ぽん さんのコメント...

日本で文系が幅を利かせているというかトップにいるのは、経済学や経営学が文系だからですよ。海外の多くででそれらは理系です。当然数学もできます。

匿名 さんのコメント...

残念ですが、付属校から無試験でSFCに上がった方には、
こういった問題は扱いにくいと思いますよ。
大学入試を経てないというのは人生において、非常にマイナスです。
また、メインイベントを見逃したようで、気の毒でもあります。
それくらい日本の大学入試は質が高いのです。

まずは東大でも早稲田でもいいので、
大学入試の文系、理系それぞれの問題をやってみてください。
(一般入試はかなり難しいですが、
合格する必要はないのです。
時間無制限でやってみてください)

解き終わったとき、文理とか科目なんて小さなカテゴリーは意味がないということに気づくでしょう。
そして問われていることはただひとつであって、
それがそれぞれの科目に形を変えているだけだということがはっきりと分かるでしょう。

だからこそ日本では文理共に活躍できるんですよ。

Yumiko さんのコメント...

>法学のグランゼコール、ボルドーにありますよ。
>http://www.enm.justice.fr/
> あの、ダチ元法相も同校出身なのは有名ですよね。

ENMは、エントリー試験をパスしなくても、ロビーイング(強い後ろ盾さえいれば)、入学できるグランゼコールで、ダチ元法相もその一人です(つまり、裏口入学です)。

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