2010年2月8日

海外で学ぶ利点と日本で学ぶ利点


Avignon, France
このブログの初心は留学のための情報を提供することでした。しかし留学の意義は人の状況・考え方よって千差万別です。理系/文系、男性/女性、学力、語学力、異文化への適応能力、将来就きたい仕事、プライベートなどなどいろいろな要素が絡み合って、一様にベストな答えが導かれることはありえません。このエントリでは、僕が考える海外留学の意味を紹介して参考になればと思って書きます。

研究員の流動性

まず、フランスの研究所では、研究員の流動性(mobilité de rechercheur)が重視されます。研究員がひとつの研究所に留まる期間を短くして、幅広い知識と経験をつけさせるのが狙いです。ひとつのところに留まっていると、自分の得意とする問題の考え方や、問題を解決するアプローチが最も正しい唯一の方法だと思い込んでしまう危険性があるからです。例えば、研究者の流動性に関する規定として、フランスの国立研究所では博士で採用された研究員は、ポスドクで採用しないという規定があります。

また、研究員の方も一つのところに留まっているよりも、複数の場所で研究を行った経験がある方が高く評価されます。しかもその場合、一つの国よりも複数の国で研究を行った経験があるがある方が、望ましいのです。フランスで博士の学位を受けたフランス人学生は、他の国で研究を続けることが強く推奨されています。この点は日本と大きく違うように感じます。例えば、以下のような経歴を持つ人を見るとどう感じるでしょうか?〇〇には同一の大学名、××には同一の学部名が入ります。
〇〇大学 ××学部卒業
〇〇大学 ××修士修了
〇〇大学 ××博士取得
〇〇大学 ××学部 助手
〇〇大学 ××学部 准教授
〇〇大学 ××学部 教授
仮に〇〇大学が著名な大学であった場合、日本では、かなり優秀な人なんだなという感想を持つと思います。なぜなら、そういう人に優秀な人が多いのを経験的に知っているからです。逆に大学がコロコロ変わっている人には「学歴ロンダリング」とか、居場所をコロコロ変える人という疑いのまなざしが向けられることすらあります。

でもフランスの場合はそうは思われません。上に挙げた同一組織でしか研究をしたことが無い人のほうが胡散臭く見られるのです。周りの状況を知らず、正しくないことを正しいと思い込んでしまう危険性を避けられないように感じるからです。下のリンクでは「自分の研究室から出た人は採用しないルール」が欧米では一般的だと書かれています。
「東大までの人」と「東大からの人」 〔受験生必読〕入ってみるとよくわかる | 賢者の知恵 | 現代ビジネス [講談社]
東大を始めとして、研究環境がまずおかしい。欧米では博士も、自分の研究室から出た人は採用しないのがルール。いつまでたっても、自立した研究者になれないからです。

そもそも大学は、研究を通して次世代の人材を育てるところ。ハーバードやMIT、中国の清華大学などが世界で評価される理由は、いい人材を輩出する大学だからです。博士を外に出せば、人材が世界に広がってゆき、評判が作られる。でも、日本は教授のクローンを作っているだけで、評判も生まれない。
1つ以上の国で研究を行った経験は高く評価されることが多いのことは注目です。

各研究室には得意技がある

研究所では研究者の流動性が議論の争点となり、研究者としては複数の国を渡り歩いた方が良いのは、各研究室には固有の得意技があるからだと思います。各研究室を統率する教授の得意とするアプローチや、日本的なアプローチ、フランス的な考え方というのが確かにあるように感じます。問題を解決するために複数のアプローチがあり、自分の得意とするアプローチが優れているのかは周りを見てみないとわかりません。この前提が、「研究者の流動性」の必要性を生んでいると思われます。

研究の得意技と言うのはストリートファイターでいうと、波動拳と昇竜拳みたいなものです。相手が遠距離の時は波動拳、近距離の時は昇竜拳と使い分けるために、または得意技の長所短所を知るために、両方をマスターした方が良いのです。なので、日本の研究室とフランスの研究室のどちらがレベルが高いの?という問いには、いつも答えに詰まってしまいます。それは、波動拳と昇竜拳のどちらが強いか比較するようなものだからです。どちらが有効かは、状況によるとしか言えないのです。

問題を解決するアプローチとして、自分の中に複数の引き出しを持っておいた方が良いと言うのが、研究員の流動性の要点だと思います。

学部、修士、博士、ポスドク、いつ留学するか

いつ留学するのかと言う点については、以上の観点から、研究室の得意技をある程度マスターしてからが良いと言えます。波動拳という武器を持ってから、昇竜拳をマスターしに行きましょう。海外であなたを迎える研究室としても、違う得意技を持った学生と一緒に仕事が出来ることは歓迎すべきことです。海外に昇竜拳をマスターしに行くとしても、状況によっては日本の研究室で学んだ波動拳も有効です。その時は、海外の学生にも波動拳を教えてあげるぐらいの気概で行きましょう。

海外に留学した方が良い学生は、その研究室の得意技はそこそこマスターしたけども、世界の中で卓越した研究成果を出すほどではない人です。逆にいうと、日本の研究室に所属し、世界でも卓越した研究成果を出せるトップ研究者はわざわざ留学する必要も無いと思います。そういう人は、たまにインターンシップや訪問研究員などをして海外視察するぐらいでいいのではないかと思います。また、その日本の研究室の得意技を学びきれていない人は、海外に来るのは早いと思います。外国語で学んだ方が習得が早いなんてことはありえません。

羽生さんの言葉として、「ITとインターネットの進化によって将棋の世界に起きた最大の変化は、将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということです。でも高速道路を走り抜けた先では大渋滞が起きています参照)」と紹介されていますが、母国語で学ぶことができる環境は、間違いなく高速道路です。母国語で高等教育を学べない国はかなり多いです。日本で高等教育の高速道路を整備してくれた先人に感謝して、活用しましょう。

なるべく早く海外に出た方が良いというアドバイスもあるみたいですが、以上のように海外と日本の両方の利点を考えてみることをおすすめします。

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2 comments:

eco さんのコメント...

初めまして。いつもとても興味深く読ませて頂いてます。
最近私は、日本について書かれた海外のサイトなどをよく読み、日本国内と国外からの視点の違いに驚いています。今まで自分がいかに日本の身近な部分しか知らない狭い経験値や、周りの風潮に流された判断をしていたか。そう思うと、もっと海外のことを知りたい、海外で学びたい(教育も日本とはだいぶ違いますし)と思い始めました。なんだかまだ漠然としすぎて手も足も出ませんので、もう少し熟すまで日本でしっかり勉強していこうと思います。引き続き分析発信よろしくお願いします。

アーモー さんのコメント...

はじめまして。母国語での学習のほうが、知識吸収に最適なのはおっしゃる通り、今ボク自身もその事を実感しております。海外留学は知識吸収というより、感情を鍛えるためにはものすごくいい環境だと思う。

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