2009年11月20日

[書評] 21世紀の歴史——未来の人類から見た世界

21世紀の歴史――未来の人類から見た世界ヨーロッパ最高の知性と讃えられることもあるフランス人のジャック・アタリ氏による今後50年〜100年ぐらいの歴史を想像する内容です。過去の歴史の流れを解説し、現在現れている兆候を分析して未来を想像します。原著は”Une brève histoire de l'avenir”として2006年に出版されたものです。

本の帯には「世界金融危機を予見した書」と書かれていますが、著者は起こる時期は2025年までとしていたので、時期については実際の状況の方が前倒しされています。ただし、金融危機が起こる前の2006年にファニーメイ、フレディマックの問題を指摘したり、実際に起こったことと近い予測をしていたのは、やはり驚きです。

本書では、まず「人類による市場の発明→市場の歴史→現在の体制の崩壊(アメリカ帝国の終焉)」という過去から現在に至るまでの歴史と、現在起こり始めている現象が説明されます。その後に、”超帝国”、”超紛争”、”超民主主義”の三つの波が訪れると述べられます。最初の二つはお金による破滅、戦争による破滅で、最後の一つは「他人が幸せになるのを見て自分が幸せになる」人類の新しい社会です。最初の二つの波が人類を破滅させる前に、最後の波を起こさなければならないと説かれています。

2025年前後に人類が破滅寸前までに行く、詳細に描かれた”超帝国”の脅威と”超紛争”の破滅は、気が滅入ってくるほどです。それに比べると超民主主義はしっくりきました。死ぬ前にこんな社会を見てみたいと感じます(著者は2060年ごろと予想)。本書は、だれも欧州連合を想像しなかった時代にジャン・ジョレスがそれを思い描いたように、また資産家も労働者も存在しない時代にマルクスが資産家も労働者の関係を予言したように、未来を思い描こうとしています。
1914年7月にジャン・ジョレス(フランスの社会主義者・政治家。フランスの第一次世界大戦への参戦に反対し、熱狂的な愛国主義者に殺される)は自由で民主的な平和と連帯に基づいたヨーロッパを描いていた。当時、80年以内に旧大陸が、彼の思い描いていたような連合体になると期待できる要因はいっさい存在しなかったのである。(p.185)
1848年1月、マルクスは資本家が勝利して、その後に労働者階級に勝利が訪れると語ったが、その当時は資本家も労働者階級も存在していなかった。つまり、マルクスは資本家や労働者階級が登場する以前に、歴史の主人公を見抜いていたのである。こうした鋭い洞察力が我々には必要なのだ。(p.289)

人類は滅亡寸前まで追いつめられてから新しい社会を築く

お金と戦争の脅威(”超帝国”と”超紛争”)と新しい社会(超民主主義)の兆候はいま既に表れています。最初の二つが人類を滅亡のふちまで追いやってから、人類は新しい社会を築くというストーリーの順序の根拠は、人類は痛い思いをしないと学ばないからだそうです。
しかしながら、超民主主義の可能性を自覚するだけでは、<超帝国>の出現を阻止することはできず、また超紛争を回避することもできないであろう。というのは、人類とは良き知らせの上には決して何も築き上げることができない輩であるからだ。(p.287)
このストーリーの順序は欧州の歴史、もしくはフランスの歴史に似ていると思います。フランスとドイツは3度争い、どちらの国家も消滅の寸前まで行ってから(フランスはヒトラーに占領され傀儡政権を樹立、ドイツは東西に分かれて占領される)、互いの幸せを願い合うことが自国の繁栄に繋がることをようやく理解します。著者はこのストーリーが世界規模で起こることを予想しているように感じました。

著者は1981〜90年のミッテラン政権時代に大統領特別補佐官を務め、将来のEU構想実現に当たってフランスと統一ドイツの関係強化が不可欠になると予想し、大統領に東西ドイツ統一の必要性を強く進言していたそうです。

世界の中心都市の移り変わり

市場秩序のの中心都市は、これまでにブルージュ、ヴェネチア、アントワープ、ジェノヴァ、アムステルダム、ロンドン、ボストン、ニューヨーク、ロスアンジェルスと過去に9回、西回りで移り変わってきたそうです。西回りの法則によると東京は次の良い候補なのですが、以下の通り筆者はその可能性は無いと見ています。
日本の首都東京は、1980年にチャンスを掴みそこねたが、2030年においても普遍的な価値を創造する能力に欠如しているだろう。例えば、個人の自由は、東京の哲学的理想ではなく、東京は外国から才能豊かな人々を十分に集めることもできない。(p.190)
中心都市に成るために外国から才能豊かな人々を十分に集めることをしないのは日本人の選択のような気もします。たかだか100〜400年で移り変わる中心都市に成り市場を支配するのではなく、辺境の地にとどまり自らの才覚で外のものを取り込んでいく方が東京にあっているように感じます。

未来の女性の役割について

著者は女性の役割が重要さを増していくと予想しています。「女性とは次世代の再生産や知識の伝承を支配しているから(P.29)」「おそらくいつかは女性が君臨することになる(P.29)」と述べています。また、他人が幸せになるのを見て自分が幸せになる”超民主主義”を推進していく”トランスヒューマン”は女性に向いていると述べています。
女性は男性よりもトランスヒューマンに向いている。というのは、相手を喜ばすことに喜びを感じることが母性本能であるからだ。経済・社会のあらゆる局面において、女性が次第に台頭してくることで、トランスヒューマンが増殖していく。(p.290)
日本の場合だと、例えば中国と韓国や東アジアが幸せになっていくのを見て自分も幸せに感じるようなものです(当然、その反対の日本の幸せが隣人の幸せを呼び起こす)。男性が主導権を持つ社会の延長線上で考えると、とても無理そうな感じです。これからは人類が破滅寸前まで行った後の、女性の主導権に期待すべきなのかもしれません。
21世紀の歴史——未来の人類から見た世界
ジャック・アタリ (著), 林 昌宏 (翻訳)

序文 21世紀の歴史を概観する
第1章 人類が、市場を発明するまでの長い歴史
第2章 資本主義は、いかなる歴史を作ってきたのか?
第3章 アメリカ帝国の終焉
第4章 帝国を超える“超帝国”の出現—21世紀に押し寄せる第一波
第5章 戦争・紛争を超える“超紛争”の発生—21世紀に押し寄せる第二波
第6章 民主主義を超える“超民主主義”の出現—21世紀に押し寄せる第三波
付論 フランスは、21世紀の歴史を生き残れるか?

2050年、そして2100年、世界の“中心都市”はどこか?国家、資本主義、宗教、民主主義は、どうなっているのか?「ヨーロッパ復興開発銀行」初代総裁にして経済学者・思想家・作家であり、“ヨーロッパ最高の知性”と称されるジャック・アタリ。これまでも、ソ連崩壊、金融バブル、新たなテロの脅威、インターネットによる世界変化を予測し、見事に的中させてきた。本書は、アタリが、長年の政界・経済界での実績、研究と思索の集大成として「21世紀の歴史」を大胆に見通し、ヨーロッパで大ベストセラーとなったものである。サルコジ仏大統領は、本書に感銘を受け、“21世紀フランス”変革のための仏大統領諮問委員会「アタリ政策委員会」を設置した。

2 comments:

花園 祐 さんのコメント...

 世界金融危機を予想していたについては反フリードマンの経済学者らが多少やっかみもあるでしょうが予想していたのでそれほど気になりませんが、東京の都市としての価値低下の指摘はなかなかはっとさせられる予想ですね。
 恐らくまだ日本人の中には、このまま行くと東京が世界の主要都市から陥落するのではという危機感を持っている人はほとんどいないと思います。しかし目下の所株価は一人負けですし、今はまだともかくこれから何とかしないとまずいのでは、という危機感がどうも日本全体に欠けているような気がします。まぁ具体的にどうすればいいかという案までは持ち合わせていませんけど。

Madeleine Sophie さんのコメント...

花園さん、

東京はどうなるんでしょうね。少子化の日本においても東京は流入があるために人口が増えているらしいですね。そのぶん過疎の村がやばいのでしょうが、東京は繁栄するのかもしれませんね。

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