2009年8月17日

日本の失敗産業と成功産業は間もなく融合する(通信と自動車)


Paris, France
最近良く耳にすることのある日本危機として、日本の産業のガラパゴス化ということが挙げられています。世界最先端の技術を持ち、世界で一番進んでいる激戦区である日本で技術が洗練されたにもかかわらず(あるいは洗練されすぎて)、世界の市場で勝てなかった現象です。さらに、世界の主戦場で基幹的な部分をアメリカに押さえられて、低賃金のアジアの国と受注を争いあうという苦しい状況に置かれています。その反面、「すり合わせ」の構造が残る自動車産業では、優位が残っていると言われています。

日本企業はなぜ敗れたのか - 池田信夫 blog
アメリカ企業がソフトウェアやアーキテクチャを支配し、それを低賃金のアジアでハードウェアに実装するという国際分業が成立したのである。日本はこのどちら側にも入れず、かつて世界を制覇した電機産業の優位性は崩れ、NTTファミリーを中心とする通信産業は没落し、自動車のような「すり合わせ」構造の残る製品によりかかって低成長を続けてきた。
つまり、日本は今、優れた技術を持ちながら世界で負けた通信産業と、世界で優位を保っている自動車産業を持っているということです。

通信しない自動車は旧時代の遺物になる時代が来る

まもなく、これらの日本の失敗産業と日本の成功産業の間に新しいビジネスが立ち上がろうとしています。自動車同士が通信を行うことで、交通を安全快適楽しいものにするという試みが始まっています。この分野の研究が、日経ビジネスにも解説が載っていました。

[2]プローブ情報ネットワーク:日経ビジネスオンライン
自動車を“走るセンサー”に見立てて、渋滞状況や天候の変化、危険箇所などの情報を集める仕組み。人工衛星や監視カメラなどを補う情報収集インフラとして注目が集まっている。複数の自動車が協調して「探索する(プローブ)」ことから、プローブ情報ネットワークと呼ぶ。
現在の自動車では、運転手が自分の視覚、聴覚、勘と経験を駆使して得た情報をもとに自動車を動かします。これが将来は自動車に搭載された無数のコンピュータ同士の通信を介して得られる情報を運転の補助情報として使えることになります。例えば、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS)の動作情報を自動車間で交換しておけば、今から通る道で今日朝からどれぐらいの自動車が滑ったか分かるようになり、先行する自動車のワイパーの動作情報が分かれば、リアルタイム降雨情報が分かるようになります。

互いにつながった自動車が安全快適で、楽しいものになるとしたら、つながってない自動車は危険不便つまらない乗り物と感じられることでしょう。そんなクールじゃない乗り物に乗りたいと思う人はごく少なくなります。自動車ネットワークの普及が始まっていけば、ネットワークにつながらないPCを買う人がいなくなったような現象が、自動車でも起こると考えられます。

自動車産業と通信産業が融合する影響

自動車会社は自動車を売っているように見えますが、実は安全で快適で楽しく移動する手段を提供しているとも言えます。互いに接続した自動車が、より安全で快適で楽しく移動する手段を提供できるとしたら、これは自動車産業に取って大きな変化と言えます。さらに交通が効率化すれば、環境への負担を軽減できる可能性もあります。オバマ大統領が提唱するグリーン・ニューディールの重要な争点になる可能性もあります。

それに加え、自動車がネットワークにつながっていく影響は、ネットワーク側にとっても大きな変化と言えます。自動車は日本に7500万台、世界に9.5億台存在すると言われています(PDF資料、66ページ)。自動車に搭載された無数のコンピュータと搭乗者のもつデバイスがいっせいにネットワークに接続されれば、ネットワーク内の全ノードのかなりのウェイトを自動車内のコンピュータが占める可能性があります。ネットワーク側も変わっていく可能性があると言えます。自動車と通信という共に巨大な産業の境界領域に、ビジネスが誕生する衝撃は計り知れません。

日本にとっては負けられない戦い

このブログでは、「日本はもうダメだ」論については楽観的に書いてきましたが(日本はもうダメだ論と日本の優秀な人材このエントリーを含むはてなブックマーク日本をもっとダメな国だと思い危機感を煽りましょうこのエントリーを含むはてなブックマークもうそろそろ日本はもうダメだと言わなくてもよい このエントリーを含むはてなブックマーク」)、それは日本が今優位な位置にいることを前提としていました。成功している産業である自動車産業で不調が続けば、下請けの関連会社、自動車の電子装備産業、鉄鋼業、輸出のための造船産業と、あらゆる分野で不調が波及していくと思われます。

軍事・文化・金融・言語とあらゆる分野で覇権を確立している米国や、長い努力の上に27ヶ国が協力しあう体制を築いた欧州に比べ、日本は自動車産業という成功産業への依存が高いと言えます。そのため、自動車ネットワークの主導権争いは、特に日本にとっては負けられない戦いだと言えます。次の世界競争においては、通信産業で過去に起こった「ガラパゴス化」などの二の轍を踏むことなく、技術的な強みと自動車産業の強みを活かして優位に競争を進める必要があります。

欧州、米国、日本、三つ巴の戦いがはじまる

昨今の凋落が特に激しいと思われている日本もこの分野では、世界の3極のうちに数えられています。一般的に脅威と恐れられている中国やインドがこの競争に参加してくることはほぼ有り得ません(市場としては有望ですが)。2007年のEUの資料(PPT)では、日本の研究は世界に先駆けて始まっていたことが分かります。

このブログでは今後、戦いのルールや、各勢力の短所長所を分析していこうと思います。

5 comments:

サカタ さんのコメント...

 自動車産業が基幹の日本にとって、確かに負けられない戦いになるでしょうね。 最近は中国とブラジルが伸びてきていると聞きますが、まだまだ日本などには及ばないのでしょうか?

通りすがり さんのコメント...

ここで池田信夫氏の名前を拝見するとは!!!
彼の様な視点の人が日本には未だ未だ少ないです。
この方の話は勉強には成りますが、自分の都合の良い事しか喋らなかったり、持論と正反対のことを平気で言ったりするので、注意です。

匿名 さんのコメント...

んー、面白い!!

日本の敗因等を詳しく書きながら、今後どうしていくべきかを具体的に書いてある!

ここが無意味に日本を貶し、自信を失わせる記事を書くようなメディアとは違う点だと思いました


日本ファイト!
自分も日本の為頑張ります!

Madeleine Sophie さんのコメント...

サカタさん、
これまでの研究成果の積み上げというところから見ると、中国とブラジルは、今回の技術の主導権争いには参加しなさそうです。ただし、各国がどの技術を採用するかという駆け引きには参加するでしょう。どちらかが採用すれば影響力は大きいですよね。

通りすがりさん、
池田さんは自由化、流動化をすすめる方針ですよね。経済危機の後は少し旗色が悪い論陣なので、ちょっと大変かも知れませんよね。どんなに偉い教授でも間違うことはあるので、参考程度に聞けば良いと思います。ちなみにこのブログも数あるブログの参考程度に見てもらうスタンスが一番嬉しいです。

匿名さん、
ありがとうございます。分析を続けていきますね。

ケイ さんのコメント...

「日本はもうダメだと言わなくてよい」について
私は金融の仕事をしています。
仕事で、同僚、お客様等と株式の話をすると9対1ぐらいで日本悲観論が多いです。多数決だと私は負けですね。
なんか、高学歴の人が多い気がするので、日本を持ち上げる人は教養がなく見えます。

でも私が「日本はもうダメだと言わなくてよい」と思う理由は主に3つあります。

一つ目は
2008年9月にサブプライム問題に端を発したリーマンブラザーズの破綻を契機に一貫して円が買われ、
ほとんど通貨に対して今年は円高です。
金融危機で高度な金融工学が真の豊かさを実現せず、
労働の対価としての付加価値が見直されているからだと思います。
物を作って輸出する日本への評価の一つだと思います。

二つ目はガラパゴス化の反対がモジュラー化でしょうか?
世界基準の規格品、汎用化は米国や中国のような大国では短期間に、対象の商品を投入し、
利益を上げられる点で優れていますが、反面、新規参入が容易で競争が激化、すぐ価格競争に巻き込まれます。
世界に通用する規格品と言うと聞こえは良いが為替の変動による通貨高で商品の競争力をなくしたりしています。
 その視点ではプラザ合意から1年で1ドル260円が130円の円高になっても
経済発展を遂げた日本は独自の技術力が評価されたと思います。
 日本メーカーの独自性が他国のメーカーを圧倒した話は田村秀男氏の「世界はいつまでドルを支え続けるのか」
の「日本の新企業モデル ガラパゴスから世界へ」に詳しいのですが汎用品はコンピューターといえども価格競争になりますが、
高付加価値の商品は日本で発展して世界に受け入れられ、価格競争とは無縁に必要をされています。その例はこの本に詳しい
のでここでは本の紹介のみにします。

三つ目は、今年初めて購買力平価ベースで見た実質GDPが米国とユーロ圏の合計を日本とアジアが上回る予想です。
今後、経済発展の著しいアジアの発展に環境、水、省エネと日本の技術が役にたつと思うし、地の利もあります。
8月8日付け日経新聞の記事にに、日本の紙おむつ、即席めん、ビール、化粧品等の食料品、日用品等の
個人消費に依存した日本の生活関連企業のアジアでの事業拡大が加速している様子が載っています。
以上が私が日本に対して悲観的でない理由です。

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