2009年7月31日

怠け者同盟の社会が働き者の社会に対抗する手段


Paris, France
怠け者同盟の社会は人類の未来」で述べた怠け者同盟の社会の持つ一番の問題点として、働き者の社会との競争に容易に敗北するということが挙げられます。怠け者同盟の社会では、週35時間しか働いていなくて、日曜日は店を開けることが禁止されています。一方、働き者の社会では24時間オープンのコンビニが氾濫し、人々は家族団らんの時間や読書・音楽といった文化的な生活を送る時間を削りながらも働いているので当然です。

働き者の社会は、熾烈な競争を通じて全体のパイを広げるアングロサクソン(米英)モデルとも言え、日本の社会も採用しているモデルです。当然、怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争は、働き者の社会の完勝と言えます。普通に競争すると怠け者同盟の社会が競争に勝利することはありえません。

怠け者同盟の社会の弱点

怠け者同盟の社会の弱点は、国内市場で競争を抑制できても、グローバル市場では競争を排除できない点です。怠け者ルールを国内で徹底していても、怠け者同盟の社会がフランス一国であれば、フランスの産業だけの国際競争力が低下して、フランスだけが貧しくなります。フランスの製品の品質が低下するから、外国では売れません。

さらに、フランスでは35時間労働制や日曜日労働禁止など、競争をエスカレートさせないルールが設定されていて商売がしにくいため、工場が隣国に逃げていきます。なぜなら、外国企業が、工場を作ってフランス人を雇うにしても、怠け者ルールを適応されてしまいます。フランスで利益を上げようとするなら、隣国で製品を作ってフランス市場で売る方が利益が出ます。

当然フランスも、1.フランスの品質の低下によりグローバル市場でのシェアが低下する問題、2.産業が隣国に逃げ出していく問題に気づいています。

同盟の拡大を目指す怠け者同盟

そこで、怠け者の同盟を大きくして、怠け者ルールを適応できる範囲を拡大するアプローチが取られます。これが、このブログで怠け者同盟と「同盟」の二文字を加えた理由です。手始めはヨーロッパ27カ国からなるEUでしょう。フランスが一貫してEU議会のイニシアチブを狙っていく理由の一端です。

まず、この市場で競争がエスカレートしないようなルールを設定します。労働者が35時間以上働いた企業や、日曜日に開店した店舗を抜け駆けとして市場から排除します。現状だと、過労死が発生した企業や、サービス残業が横行している企業は格好のターゲットになるでしょう。こうして、拡大した同盟の市場から働き者を排除していきます。怠け者同盟の社会がフランス一国だったら、グローバル企業は、商売が難しいフランス市場を見捨てたかも知れません。それがEU27カ国となると話は違ってきます。ユーロ経済圏のGDPはアメリカのGDPを凌駕しています。簡単に諦められる市場規模ではありません。EUで商売をする企業はEUで通用するルールに則って商売するしかありません。

論理によって維持される怠け者同盟

同盟が分裂しないように維持し、強制力をもって働き者を排除する正当性は論理によってなされます。”エスカレートした競争がいかに人を幸せにしないか”、”競争を抑制した社会が人類の未来のあるべき姿”か、主張します。槍玉に挙げられるのは発展途上国の未成年の不当労働、過労死や過剰労働による鬱などです。これらが人間の基本的人権を踏みにじっていると主張します。

1789年、フランス人権宣言とも呼ばれる人間と市民の権利の宣言(Déclaration des Droits de l'Homme et du Citoyen)を高らかに宣言したフランスは、人権の母国としてのプライドを持っています。人がより良く存在できるための理念を率先して作るのは自分達だと思っています。発展途上国の悲惨な未成年の不当労働を持ち出して世論を動かし、反論することも困難なほどの論理をもって人権の範囲を拡大してくるでしょう。つまり労働の制限が人権に加えられようとしています。英語でもフランス語でもKarōshi(過労死)という単語が使われます。これは、日本に興味があるわけではなく(少しはあるかもしれませんが)、同盟の論理を強化する理由に使える可能性があると思って興味を持っていると思われます。

怠け者同盟の拡大と同盟の論理の今後の展開

現状では、過労死が発生した企業やサービス残業が発生している企業の製品であってもEU市場から排除する強制力はありません。このエントリでは怠け者同盟の社会が将来取りそうな方策をデフォルメして書いてみました。しかし、フランス社会党の元党首のセゴレーヌ・ロワイヤル氏が2007年の大統領選挙で訴えた、「国際的に人権を保護するフレームワークを各国協調で作り上げる」という構想は、拡大すれば以上に述べてきたような市場に競争を排除するフレームワークともなり得えます。

さらに、「競争の抑制によるソシアリスムの実現」にも書きましたが、昨今ヨーロッパで流行っている近い活動にフェアトレードの 考え方があります。これは途上国の製品を不当に買い叩かないという慈善的な意味合いを持つ活動ですが、労働に対して正当な値段を付けるというフェアトレードの考え方は、不当な労働に対しては許容しないという考え方に移行するかもしれません。未成年の過剰労働などを通じて不当な搾取によって作られた製品をEU27カ国の市場から閉め出したりすることが、将来可能になるかもしれません。世界の風潮と、怠け者同盟の取りうる戦略を考察するとそういった結論にたどり着きます。過激な競争によって製品の品質を向上させる日本企業は怠け者同盟の社会の動きに注目です。
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1.仲間を募って同盟を拡大し、2.世界を説得する論理を創り出すと言うのは、今の日本の苦手とするところです。今後は、この同盟のイニシアチブを握るフランスの状況を分析した後、日本の取りうる戦略について考察しようと思います。このブログでは、以下のエントリを予定しています。
  1. 怠け者同盟の社会のまとめ
  2. 怠け者同盟の社会は人類の未来
  3. 怠け者同盟の社会が働き者の社会に対抗する手段(本エントリ)
  4. 怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中のフランス
  5. 怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中の日本
  6. 怠け者同盟の社会の中で輝きを取り戻す日本
  7. 自由のスパイラルから脱出を目指す怠け者同盟
  8. 労働に対する社会の仕組みを試験に例える
  9. ベーシック・インカムよりも怠け者同盟の社会 このエントリーを含むはてなブックマーク

6 comments:

匿名 さんのコメント...

フランスの選択と、フランスの同盟拡大戦略は理解できるのですが、この方向のアプローチが成功するには、個人的な感覚では、最低でも2~3世代は必要だと思います。(人間の価値観の転換ってそういうものかと)現在の社会では、50年以上の時間というのはすぐに判る経済格差が十分つくだけの時間だと思います。
全世界に「幸福重視」の価値観を広めるよりも、「怠け者同盟」が内部からの「経済格差」への不満で崩壊する方が早い気がします。
「怠け者同盟経済圏」の住民が「幸福を追求する以上、経済格差もよし」と揺るぎなき信念を持っていれば問題無いのでしょうが、東欧共産圏崩壊(特に東ドイツあたり)の事例をみると、理性に基づく信念なんてものは非常に危ういんじゃないか、というのが個人的な感覚です。平等がある程度達成されていても隣国の豊かさへの嫉妬に負けるんじゃないかな、と。
このあたりは人間の本性をどうみるか、という人間観の問題かと思いますが、「優越感」を幸福の十分条件と感じる(そして劣等感が幸福を感じる邪魔となる)人間が多数派である限り、フランスの試みはかなり厳しい道かなあ、と。
個人的には応援したいですが、世界がつながった17世紀からこっち、一つの価値が世界的スタンダードを獲得できる可能性はどんどん小さくなっているのではないかと思います。

匿名 さんのコメント...

↑Madeleineさんにはすぐご理解頂けると思いますが、ここでの「経済格差」は
「国家(地域)間の経済格差」の意です。「国家(地域)内の経済格差」は無くてもいい(むしろ文脈上は「無い」ことが前提)状況でも発生する可能性が高い「競争社会に対する、怠け者同盟の相対的経済劣位」の格差、の意です。

匿名 さんのコメント...

確かにフランスは「人権の母国」であるのでしょうが、現実には奴隷や植民地人など、人権を得るに値しない「非人間」や「劣等人種」をこき使うことで富を蓄え、先進国となった国でもあります。

奴隷制や植民地支配が決して正当化されない現代において、貧しい国々がのし上がるには、国民が自ら進んで奴隷的に働く「働き者の社会」を築き上げるほかにはないでしょう。

そういう後発の国々にとって、フランスなどの先進諸国が、倫理的・道義的な優位性を振りかざし、「怠け者でいること」を強要して発展を阻害しようなどということは、受け入れがたいことでしょう。

中国などの新興国はなぜ、先進諸国から提案された、倫理的な見地から優れたものであるはずの温暖化対策や環境保護対策に対し、消極的な態度をとったり不満の意を表してきたりしたのでしょうか。

Madeleine Sophie さんのコメント...

みなさま、コメントありがとうございます。コメントが鋭いので、次のエントリが書き上がるまでにネタバレしてしまいそうです。

> 全世界に「幸福重視」の価値観を広めるよりも、「怠け者同盟」が内部からの「経済格差」への不満で崩壊する方が早い気がします。
これは、実際のフランスの葛藤ですね。本エントリで分析したような戦略に現実性を見いだせなかった人たちが、現実路線のサルコジ氏に投票したんだと思います。フランスにおいても、この戦略を支持する人と支持しない人は割れています。得票率などは、「フランスの日々: 競争の抑制によるソシアリスムの実現」に書いてある通りです。

> そういう後発の国々にとって、フランスなどの先進諸国が、倫理的・道義的な優位性を振りかざし、「怠け者でいること」を強要して発展を阻害しようなどということは、受け入れがたいことでしょう。
美しい論理の裏に潜んだフランスの国益拡大のずるさが見えるということですね。その通りだと思います。しかし、論理というのはたとえその目的が、フランスの国益増進のためだということが透けて見えたとしても、論理で倒さなければなりません。フランスの論理を上回る論理を創り出さなければ、やがて世論に押されることになるのです。”ずるい”フランスに負けたくなければ、フランスより賢くならなければなりません。次のエントリにご期待ください。

doku さんのコメント...

 初めまして。前回と今回の記事、大変興味深く拝見しました。
 ところで以前以下のような記事を書いた事があるのですが、「怠け者同盟」におけるフランスとECの戦略とソビエトの「怠け者の楽園」の戦略を比較するとさらに面白い事が見えてくるかも知れません。

・本当は豊かな、あるいは怠け者の楽園だったソビエト連邦
http://fukuma.way-nifty.com/fukumas_daily_record/2007/02/post_9501.html

Madeleine Sophie さんのコメント...

dokuさん、面白い記事ありがとうございます。

怠け者同盟の社会を本気で作り上げていく路線と現実路線の間で葛藤があるフランスの状況を分析してみました↓。ぜひ見ていってくださいね。
フランスの日々: 怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中のフランス

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