2009年7月13日

[書評] おじさん、語学する

おじさん、語学する (集英社新書)おじさんがフランス語を一から学んでいく過程が描かれている物語です。著者は言語教育を専門とする先生なのですが、物語のおじさんは真面目なサラリーマンで語学の経験はほとんど無い設定です。フランスに嫁いだ娘が生んだ孫に会いにフランス語を学ぶことになりました。普通の語学書とは違うこの語学の習得過程を物語として描くことにしたのは、語学学習のモチベーションにスポットを当てるためだったそうです。
こうした物語的記述法を選んだのは、語学を習得するために欠かせない心の風景や一瞬の機微を生け捕るためでした。(p.194)


語学の成否を決定する一瞬の機微というのは確かにあるような気がします。うまくしゃべれて気をよくしたり、あまりの難しさに気が遠くなったりと、フランス語を学習した当初は気持ちが行ったりきたりしていました。この本では気持ちの持ちようの一例を見せてくれるという点で、他の本には無い良さを提供していると思います。
じつは、語学学習の成功を左右する勘所は、つねに心の風景や内省の問題として立ち現れます。世の指南書は、一般原理や法則を教えてはくれますが、それを個人に当てはめ役立てるときに欠かせない気働きや気持ちの持ち方まで明かしてくれるわけではありません。(p.195)
僕がフランス語を勉強したときには幸いにもモチベーションが途切れなかったこともあって、比較的うまくいったと思います。一つモチベーションに関わる話で思い出すのは、チームの雑用を引き受けてくれるおじさんが言った一言です。おじさんは研究者や技術者ではなくてチームの機器の管理などをやってくれていて、あまり英語がしゃべれません。ある日、「3ヶ月でそんなにしゃべれるようになったんだね。さすが博士の学生はすごいね~」と言われて、うれしかったので覚えています。おじさんは博士課程の学生のことをあまり知らないと思いますが、頭がいいので語学の上達も早いと思ったようです(実際は毎朝3時間、誰がやっても多少の上達はするぐらいの勉強をしていました)。これを聞いて僕は、語学が上達すると博士課程としての能力も高いと見られるのか、これはラッキーだなと感じました。また、逆に上達しないと博士課程の学生としての能力も同様に低く見られたりするのかなと、絶対に上達をやめられないと感じました(もちろん、実際に博士学生の進捗を評価する人は、フランス語の上達は考慮しません)。

本書では、主人公の気持ちの動きと起こった現象に対して説明が加えられています。最初にフランス語が違和感なく聞こえた瞬間はこんな感じで描かれています。あるあるって感じでした。
思えば、頭の中にフランス語回路がプリントされつつある、と初めて感じたのは、「イレタラガール」というフランス語を聞いたときだった。「入れたら、ガール?」なんじゃ、それは?そのせつな、それは、「イレタ ラ ガール(彼は駅にいる)」というフランス語になった。フランス語に聞こえた瞬間、日本語の妙な連想は跡形もなく消え、なんの違和感も残らなかった。(p.121)
おじさん、語学する (集英社新書)
塩田 勉 (著)

第1章 発端
第2章 学ぶ動機と助走
第3章 会話の生がやりたい!
第4章 一歩踏み込む外国語会話
第5章 いざや本番、真剣勝負
第6章 本書の方法論

外国語習得の成功には、他人に頼らず自前の流儀を編み出してゆく試行錯誤や自己点検が何よりも大切。なぜなら、外国語を学ぶということは、日本語の思考回路のスイッチを切り替えて生きることを意味するからだ。自分に合った方法ならば無理がないから続けられる。—どこにでもいそうな語学苦手人間を主人公に仕立て、ゼロから出発して失敗しながら工夫を重ね成功の道筋を発見してゆく物語の中で、どうしたら挫折せずに外国語を習得できるのか、そのきっかけと学習法、成功を左右するポイントを懇切丁寧に指南する。これから外国語を初めて学ぼうとする人、久しぶりにやり直そうとする人に最適。

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