2009年6月23日

センター入試とバカロレアに見る日仏の違い


Toulouse, France
今、フランスでは学生にとって大一番の勝負となる試験、バカロレアの試験が開催されています。この試験が日本とだいぶ違っていて、面白いです。この違いが両国の国民性の違いを説明するのにも参考になるために、エントリとしてまとめておきます。一般的に、日本人は機能性・効率性を重視し、短期の結果を最適化します。その効用の長期にわたった影響を考察するというような、現時点においては何の効用を生まない概念的な命題に重きを置かない傾向があります。フランス人は、現時点においては何の効用を生まない議論をすることを好み、現在、直面する問題が放置されることもあるように思います。

教育が国民性にどの程度の影響を与えているのかは分かりません。また、教育と特性のどちらが原因でどちらが結果なのかもはっきり分かりません。つまり最初に国民性があり、その国の教育の特性が生まれたのか、教育の特性が国民性に影響を与えているのか、分かりません。それでも、バカロレアとフランス人の特性には否定しがたい関連性があるように思います。というのも、バカロレアが上に挙げた「現時点においては何の効用を生まない議論」を聞く問題だからです。2009年のバカロレアの問題は以下のようであるようです。
FRENCH BLOOM NET-main blog: フランス式大学入試 バカロレア この問題、解けますか?
18日の哲学を皮切りに、フランスの大学入試、バカロレア baccalauréat (略して BAC)の試験が始まった。日本のセンター試験のようなものだが、根本的にシステムが違う。バカロレアは大学入学資格を得るための統一国家試験。バカロレアを取得することによって原則としてどの大学にも入学することができる。

今年の哲学の問題は次の通り。

La langage trahit-il la pensee?(言語は思考を裏切るか?)
Est-il absurde de desirer l’impossible?(不可能を望むことは非合理か?)
以下が去年のバカロレアです。僕の専攻に近いテクノロジー系と科学系の問題を引用させていただきます。
ね式(世界の読み方): バカロレア・哲学2008
テクノロジー系/Série Technologique (toutes séries sauf TMD) coefficient 2
  • Peut-on aimer une œuvre d'art sans la comprendre?
  • Est-ce à la loi de décider de mon bonheur?
  • Répondre à des questions d'après un texte de Kant
  • 芸術作品を理解せずに愛することはできるか
  • 私の幸福を法が決定しうるか
  • カントのテキストを読んで設問にこたえよ
科学系/Série S (scientifique) coefficient 3
  • L'art transforme-t-il notre conscience du réel ?
  • Y a-t-il d'autres moyens que la démonstration pour établir une vérité ?
  • Expliquer un extrait de "Le monde comme volonté et comme représentation" de Schopenhauer.
  • アートはわれわれの現実意識を変えうるか
  • ひとつの真実を確立するためにデモンストレーション以外の方法はあるか
  • ショーペンハウアー『意志と表象としての世界』からの抜粋テキストを解説せよ
日本人の多くが受験するセンター試験では、正解が一つである問題が出題されますが、バカロレアでは以上のような正解のない問題が出題されます。正解のない問題に論理を用いて他者を説得する文章を書く能力が問われることになります。

日本の様に正解が一つの問題を解く能力を鍛える場合には、記憶力やすばやく、効率よく正解にたどり着くための能力を磨く必要があります。問題を解く効率性、機能性を重視した勉強法になり、問題を解くことに特に関係しない「この世の中を理解する」、「偉人の思想に分析を加える」といった事柄は後回しにされます。反対にフランスでは正解にたどり着くことではなく、答えが正解により近いことを説得力のある論理で示すことを求められます。学生は、この世の中をどのように捉えるのか、偉人の思想をどのように捉えるのか、といった日本人が概念的過ぎて役に立たないと切り捨てるような事柄を徹底して鍛えられます。食後のコーヒータイムも、特に自分の仕事に関係ないような政治の自説を戦わせたりするところに、その違いの片鱗を見る思いです→左派と右派の意見が近いフランス人の政治議論フランス人の政策議論はアラカルト方式

これが合理化、機能化、効率化を通じて現在の地位を築いた日本と、自由・平等・民主主義の思想を打ちたて、論理を持ってヨーロッパをまとめ自国の影響力を築こうとするフランスの違いなのでしょうか。教育に絶対的な良し悪しもないでしょうが、フランスが重視するものの価値を再考するのも、良いかもしれません。

8 comments:

花園 祐 さんのコメント...

 恐らく日本人なら、こうした計量化できない試験で学力を測るなど以ての外だと言ってまず実施しないでしょうが、私は試験官が相応の教養と判断力を持っていればこういう試験方法もありだと思います。っていうか、多分私の場合はこういう試験のが有利そうな気もするし……。

サカタ さんのコメント...

 僕は、むしろフランスのバカロレアのほうが面白いと思います。しかし、こういう抽象的なものって学問にしないほうがいいような気がします。マイノリティーを持つためにも、学問として体系的に捉えてしまうのではなく、何事にも束縛されずに考えることが一番だと思います。だから、試験問題に哲学の問題を取り入れることにはやや反対です。

 しかし、フランスの抽象的なことを議論する風習はすばらしいと思います。個人的な意見ですが、やっぱり大切なものっていうのは具体的でなく抽象的なものの中にあると思うので。 

 

Madeleine Sophie さんのコメント...

花園さん、
採点者が妥当な採点をするのかが気になりますね。膨大な手間もかかりそうですし。どんな様な試験勉強になるのか興味が有りますね。こんなに違う試験なので、学生の考え方も全く違ったものになると思います。

サカタさん、
たしかにすべての学生が模範解答例を真似るようになってしまったら、本末転倒ですね。みんなの思考が似たり寄ったりになってしまう弊害が有りそうです。とはいえ、論理的思考には一定の作法があるのでそれを鍛えると言う意味では、やっぱり良い方法だと思いますね。

匿名 さんのコメント...

日本のセンター試験は、幅広い教養や基礎的な技術の習熟度を、できるだけ公正なやり方で問う一斉試験であって、大学入試制度の一部にすぎないですよね。

各大学は、これに加えて二次試験で論述形式の問題など、より曖昧で自由度のある方式を採用することができます。

バカロレアなる物については良く知りませんが、これを日本のセンター試験のみと比較することに意味があるのでしょうか。

短期決戦の受験制度としては日本のほうがまだましなように思いますが。

匿名 さんのコメント...

哲学の回答は形式を満たしていることが重要で、自分の意見だけを堂々開陳してもダメ。これまでの哲学者が、設問に関してなにを考えたかをどれだけ踏まえた上で自分の意見を付加できているかが問われるわけです。

匿名 さんのコメント...

大学受験を経験していない方がこういう問題を論ずるとこうなる、という見本みたいなエントリーになってますね。

センター試験はおっしゃる通り、一つの答を短時間に出すように作ってあります。
わざわざそうしてあるんです。

というのも、センター試験の結果というのは、誰も公には言いませんが、各大学を受けるための受験資格みたいなものなんです。

それが証拠に、東大や京大をはじめとした主力大学においてはセンターの点数を思い切り圧縮して使っていて、合否にはほとんど影響ありません。
言い方は悪いですが、足切り程度にしか使われていないんですよ。

他のエントリーにも書いたのですが、
こういった問題は、実際に受けてみないとわからないです。

がんばって受けてみてください。

Manabu Tsukada さんのコメント...

テスト

麻生 さんのコメント...

何のための試験か、ですね。
日本のは優秀な奴隷選抜。
フランスのは優秀な指導者の選抜。

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