2009年4月23日

[書評] 名将たちの戦争学

名将たちの戦争学 (文春新書)
過去と現在の著名な軍人の名言から戦争を説明した本でした。著者は防衛大学卒で軍人としてのキャリアを歩んだことも会って、軍人の視点から物事を考えているという感じがしました。具体的には、「5章、法を破って戦争に勝った英国の提督たち(p. 129)」や、「おわりに、強いことはいいことだ (p. 203)」といったところです。法を破って戦争に勝つことの意味や、すべての国が強いこと求め続けた結果、何が起こるのかということの想像力が、欠けているように感じてしまいます。もちろん、そういった視点を持つことは軍人の職務には必要なく、戦争に必要な知識を豊富に持っている著者がその考えを著してくれたことには意味を感じます。著者は戦争には詳しくても、より高次の視点が欠けているように感じたのは、前回書評した「[書評] 新・戦争学」でも一緒でした。政治家が戦争に口出すとろくなことが無く軍人が判断すべきと書かれており、それに対する自分の意見を述べさせていただきました。

なので、こっちの書評では、同じような反論は省略します。この本で面白いのは、普通は知ることの無い戦場での風景が少し想像できるところです。戦場での勝敗は決定的な物で、将棋や囲碁のように誰でもが形勢を判断できる物だと思っていたのですが、実際には勝敗は当事者にも戦闘中にまったく分からないそうです。太字は全て原文通りです。

「戦争では、霧のような偶然、無秩序な混乱、偶発事件の発生は常態である。少なくとも遅延、誇張、誤解、突発事態、不合理は予期しておかなければならない。」(p.26)
「戦争では、全ての行動は、霧の中や、月光の下のような薄暗がりで行われているように見える。それは異様で、しばしば実際の大きさより巨大に映るのだ。」(『戦争論』馬込建之助)(p.26)
「戦争は不確実性の世界である。作戦や戦闘行動にかかわる要素の四分の三は多かれ少なかれ不確実性の霧に覆われている。...(略)...(クラウゼヴィッツ)
「状況不明は戦争の常であるー(中略)ー世界中の軍隊は状況不明の真っただ中で宿営し、更新している」(p.117)
とにかく、「指揮官は二五パーセントの情報を手にすれば『おんの字』で決断せよ!」という格言が成り立つわけである。(p.118)
その他、戦場では混乱がつきまとい、戦闘に完勝した方の軍隊も戦っている間は、勝っているか負けているかまったく分からなかったりする様子が描かれていました。また、双方が敗北したと勘違いし退却した戦闘もあるそうです。司馬遼太郎の『坂の上の雲』でも、海戦では互いに互いの砲弾があたった上に、味方のダメージが間近に見え、相手のダメージが遠目に見えるために、双方が負け気味だと錯覚するというようなことが書かれていたように覚えています。日本海軍が完勝した日本海海戦ですら、日本艦の砲弾があたって火の海になり死体が散乱しているところを見れば、負けているようにしか見えなかったそうです。『坂の上の雲』にそのような記述があったことを記憶しています。(日露戦争と言えば、このフラッシュはかなり面白いと思います。大日本帝国の最期という太平洋戦争版もあります。)

ビジネスマンが読むことを想定しているのか、この本では戦争や戦闘をビジネスに置き換えた記述がよく見られます。この当事者の誰もが正確な形勢判断を出来ないというのは、現実世界でもよくあることのように思えます。例えば、傍目からは成功しているように見えるプロジェクトも、内部の人から見ると、問題が多発しているように見え、失敗寸前のように感じているかもしれません。逆に、うまく動いているとは思えないプロジェクトや、問題ばかりが目につくプロジェクトで自分の目には失敗しているとしか思えないようなプロジェクトでも、傍目から見れば成功している部類のプロジェクトと見えるかもしれません。特にビジネスなどでは、競合他社の状況や、顧客の思考、未来の経済状況など不確定な要素が多すぎて、25パーセントぐらい分かったぐらいで、思い切って行動する必要があるのかもしれません。

勉強しても上達していかないように見える自分の能力も、実は傍目からは上達しているように見えたり、このままじゃダメだと悲観的になることがあっても傍目からは順調に見えたりするのかもしれません。自分が分かっている範囲は25パーセントぐらいで、その他はまったく知覚すら出来ていないのかもしれません。戦闘でも悪い部分がよく見えるそうなので、実世界でも見える部分から少しポジティブに見えない部分を補正して考えるぐらいでちょうどいいのかも知れないと、思います。

名将たちの戦争学 (文春新書)

松村 劭 (著)

第1章 戦争はなぜ起きるのか
第2章 勝敗の判定
第3章 戦いの原則
第4章 戦略の極意
第5章 戦術の極意
第6章 教育と訓練
第7章 指導者・将校・兵士
第8章 作戦・命令・戦闘

ナポレオンやクラウゼヴィッツ、パットンやロンメル、毛沢東など、古代ギリシャから湾岸戦争の現代に至るまで歴戦の名将たちが実戦を踏まえて残した格言を 軸に、戦略・戦術の神髄とその実際的効用をやさしく説き明かす。自衛隊の元作戦幕僚が語る「戦争学」の極意は、戦いの原則や勝敗の判定、作戦・命令・戦闘 から教育・訓練に及び、経営戦略や実人生とも深く関わっていて味わい深い。

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