2009年4月19日

[書評] 苛立つ中国

苛立つ中国 (文春文庫)中国に蔓延する反日の全体図が分かる本でした。反日の激しさや原因の多さと複雑さ、全てにおいて解決困難を思わせる詳細さは、読んでいる間に気分が沈んでくるほどです。西安留学生寸劇事件尖閣諸島領有権問題東シナ海ガス田問題歴史教科書問題靖国神社問題アジアカップの暴動など様々な話題にジャーナリストとしての取材を通じて得られた情報と、分析を行っている内容です。事実の羅列だけでなく、新鮮な著者の分析もちりばめられているので、この話題に興味があれば、読んでおくべき本といえると思います。

たくさんのトピックがあるなかで、印象に残った1)中国共産党との付き合い方に関する問題と2)靖国問題について紹介します。まず、日本は中国に進出している企業などのためにも中国で反日デモは起こってほしくないと思っています。それを抑える手段が日本には無く、中国共産党が反日デモを抑制するように働きかけて、中国共産党がデモを抑えてくれることを期待するしかありません。この状況では、日本と中国共産党は民衆のデモを抑制するという点においては共闘関係にあり、日本は中国の民主化を阻む側だと捉えられる危険性があると説かれています。
民間人の政治参加、発言の欲求を「民主化」と呼ぶならば、反日デモが認められるか否かは、民主化が認められるか否かとも重なる問題なのだ。反日デモが認められないとしたら、民主化を阻んだ者は日本であると混同されかねない。その場合、現在の中国人は日本を抑圧勢力と見なすだろう。...(略)... 反日感情の発露を当局が力で排除することは、一時的に日本への追い風とも見えるのだが、長期的に見れば問題をより複雑で根深いものにしてしまいかねない要素を含んでいるのだ。(p.55)
デモの抑制などに、中国共産党の力を頼りすぎると、中国共産党が倒れる日が来たときに日本も民主化を阻んだ敵と認識されるかもしれないということです。著者の意見は下の引用のように民主化と日本のイメージを重ねる戦略ですが、あまり深くは書かれていませんでした。もう少し論を聞いてみたかった気がします。
一旦「自由」や「人権」に絡む問題が持ち上がれば、中国がいかなる圧力をかけようとも支持し、亡命者も受け入れる。そうすることで日本の新しい「価値観」を「中国」でなく「中国人」に向かって発信するのである。こうした発信を辛抱強く続けていくことによって、中国人の頭の中で「民主化」と「日本」のイメージが重なれば、中国に起こる新たな動きは日本を受け入れるかもしれない。(p.258)
次に靖国問題についての話は面白かったです。靖国問題は存在してくれたほうが、日中双方にとって都合が良いという解釈です。そして、これは早急に解決せずに問題として残しておいたほうが良いというのです。領土問題や資源問題は双方が絶対に譲歩できない反面、先祖の供養の方法が文化的に違うというのはお互いに理解できる可能性があるからです。一番対立の激しい問題が前面に出るより、靖国問題があったほうが日中問題が和らいでいるかもしれないそうです。
日中間に横たわるのは靖国神社への参拝問題だけではない。短期的に見ても、東シナ海ガス田の開発問題もあれば、尖閣諸島の問題もある。日中間に火種は尽きないのだ。中国社会に不満のガスが充満している以上、靖国問題の解決一つで爆発は避けられると考えるのは誤りである。しかも、靖国参拝問題に比べてこうした問題は、バッファー(緩衝器)がない分、きわめて扱いにくい。...(略)... 靖国問題にケリをつけて、バッファーのない問題をやみくもに前線に引き出してしまうことが得策なのかどうか。経済界は、そのところをもっとよく考えてみるべきではないだろうか。...(略)... 逆説的にいえば、靖国問題というバッファーは存続した方が両国に取っては都合がいいともいえるのである。(p.206)
これは、確かにそのとおりかなと思います。2006年8月15日に小泉首相が靖国神社に参拝した日、僕はインターンシップでフランスに滞在して中国人の同僚と働いていて、議論になったことがあります。領土問題や歴史問題に比べて、議論しやすかった覚えがあります。中国人に不快な気持ちを与えるのは残念だけど、国や家族を守ろうと思って戦争で死んだ人を弔うのは当然のことで、弔い方にはさまざまな文化があることを説明しました。つまり、日本人は戦争を肯定しようと思って死者を弔ってるのではなく、戦いが終われば敵味方を問わず死者を弔うのが日本人の感性なんだと説明しました。例えば、原爆投下の決定を下したトルーマンの眠るアーリントン墓地をアメリカ人がどのように参拝しても気にしないし、日本人が墓地に観光に行って、敵方だった人々の墓地を参拝しても何の問題も無いことなど説明しました。彼は中国では日本人が戦争を反省していないから靖国参拝するとしか聞いていなかったので新鮮な様でした。

ちなみに僕は、中国との関係に配慮して公人の靖国参拝を取りやめるのも一つの選択かと思います。その場合にもその決定は弔う人がするべきで、他人に言われてやめるのは筋が違うと思います。

最後に、著者は日中関係について書くことの難しさをこう書いています。このエントリもしかりです。
ジャーナリストとして中国と接する時、「反日」などの日中摩擦問題に嘴を突っ込むのは利口な選択ではない。万人を納得させる百パーセントの回答などあるはずがなく、必ず誰かの恨みを買うことになるからだ。(p.283)
苛立つ中国 (文春文庫)
富坂 聰 (著)
第1章 膨張する反日エネルギー
第2章 西安の日本人狩り
第3章 反日運動の「七勇士」
第4章 迷走する香港
第5章 靖国神社参拝の是非
第6章 中国人を味方にできない日本企業
西安の日本人狩り、尖閣諸島への不法上陸、そしてサッカー・アジアカップの暴動。相次いで起きた中国の反日運動は、2005年4月の反日デモで頂点に達す る。過激な運動を煽ったのは一体誰なのか?中国共産党か、民間の反日活動家か、それとも—。徹底した現地取材で、台頭する中国のナショナリズムの核心に 迫った意欲作。

2 comments:

花園 祐 さんのコメント...

 この富坂聰氏は私も最も高く評価している中国評論家で、中国を調べる際にはこの人の著作が非常に役に立っています。最近買ったのだと、これも大分前だけど「中国官僚覆面座談会」というのがありました。

 靖国問題というのは何気に日本にとって大きな外交カードとなってきているところがあり、「公人の靖国参拝をやめる代わりに中国は何をくれるの?」という駆け引きにまで使えるとろまで来ており、私も領土問題などと比べて日本にとっては有利な日中問題だと考えています。

 そういえば福田元首相が約束した、年間一億円のレンタルパンダはどうなったんだろ。っていかこの人の功績ってこれだけになるのかな。

Madeleine Sophie さんのコメント...

花園さん、中国官僚覆面座談会 (Clickシリーズ)、なかなか面白そうですね。チャンスが会ったら手に入れてみたい本です。

靖国問題で逆に取引ですか... 中国も自身の側が譲歩をする場面になったら、問題を引っ込めるかもしれませんね。まあ、きれいな方法じゃないかもしれませんが。でも解決しない方が良いんでしたね。ぐだぐだ長引く方がいいのかもしれませんね。

パンダ...今となっては懐かしいですね。

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