2009年4月3日

フランス人の議論を信頼する


Lyon, France
フランスから来るニュースを見て、「フランス人ってバカでナマケモノだな〜」と思っている人はいませんか?そう思うかはともかくとして、日本から見るとそういうように見えることがあると思います。例えば、26歳以下の労働者を理由無く解雇できるようにして、雇用を促進し、若者の失業の柱にしようとした初期雇用計画(CPE)から発展した暴動の時のことです。”フランスの失業率は現在約10%であり、特に若年層の失業率はその倍の20%を上回る。(参照)”という状況で、当時の政府は非常の手段をもって失業対策にあたるつもりでこの法律を制定したのでした。そして、それを暴れ狂う学生たちに潰されました。
JIIA -日本国際問題研究所-
フランスで2006年3月9日、CPE(Contrat Premiere Embauche:初期雇用計画)という制度を盛り込んだ「機会均等法(La loi sur l’egalite des chances)」が議会で成立した。これに反発するデモやストライキがフランス全土に拡大し、シラク大統領とドビルパン首相は4月10日、ついに同法第 8条、即ちCPEの事実上の撤回を決定した。今回のデモの発端となったCPEとは、企業が26歳未満の労働者を雇用する場合に2年間の「試用期間」を置くことを認め、その期間内であれば理由なしの解雇を認めるという内容のものであった。その目的はフランスの特に若年層を中心とする失業問題の改善にあった。


これを見て、フランス人は試用期間に一生懸命働かされるのが嫌な怠け者とか、若者の5人に1人が失業している状態を改善する案をヒステリックに拒否しているとか、いう感想が多かった気がします。実際に僕もそうでした。また、フランスと比べ経済規模が倍ほどの日本でも新興国の追い上げを食らって大変な時期なのに、現状を打開する改革を拒んでいるようでは、フランスは先進国から脱落していくんだろうと、冷笑を含んで冷ややかに見ていたような気がします。

最近では政府の大学改革を拒むために、学校封鎖や、先生による集団授業ボイコットなどで、生徒はほとんど授業を受けることが出来ません。日本にいた頃の僕の考えを思い出してみても、多くの日本人の感想は下のリンクのようになるような気がしています。
フランスの大学のストライキ|...in Paris (パリ大学留学記)
フランスでは現在、政府の大学改革案に反対する大学関係者(主に教員と学生)が大規模なストライキを起こしている。論点は三つ。1) 大学の雇用を削減する、2) 大学に自治権を与える、3)修士課程を終了しないと教職免許を取れないことにする。...(略)... 結論:自分たちの既得権益に固執する組合はあまりにもわがまま。
フランス人は改革によって職場が競争にさらされるのを嫌うナマケモノで、一人の日本人が簡単に答えが出せるような問題の本質も理解できないバカで、ごね得を狙っている傲慢な人たち、といった感じでしょうか。

でも今は、フランス人たちが騒いでいるときは、互いの陣営に簡単に判断できない問題が横たわっていることが分かってきました。この2年間、食後の30分ぐらいのコーヒータイムに付き合ってきて、分かるようになりました。彼らは日本人より特別にバカというわけではありません。かなりの議論好きです。政治の議論が始まると、ある程度の興味を持っていると思っている僕ですら、聞き役になってしまうほどです。母国語でない分、議論は不利な風を装っていますが、実は日本語でも彼らと同じぐらいのクオリティを持った意見を、論理的に説明する自信はないくらいです。草の根の議論ですらこのクオリティなので、議論によって選抜された政治家やオピニオンリーダーが展開する意見と論理のクオリティは想像できます。

もちろん、ナマケモノでごね得を狙った傲慢な”抵抗勢力”や、改革によって手柄を立てようとする権力者がいるのは当然です。しかし彼らですら、自らの展開する意見がどのようにフランスを良くするのかというヴィジョンを示さなければ周りに理解されず、フランスでは戦えません。当然、両陣営とも徹底的に鍛え上げた理論の結晶をもって戦いに臨むことになります。フランスで起こっているバトルは他国からちょっと来て結論が出せるほど、容易な物ではなく、その議論の本質はみるべき物があると思います。フランスかぶれだと思われるでしょうが、彼らの展開する議論は一見の価値があります。

関連:

17 comments:

花園 祐 さんのコメント...

 例の試用期間の間は自由に解雇できるという法律に対するデモに対しては、私は逆にフランスの若者はたいしたものだと感じましたが、日本の世論は確か二Sophieさんの言う通りに批判的でしたね。ちょうどそのときにフランスから帰ってきた子が状況を解説してくれたのですが、話を聞く限り取りようにとっては若者を更に追い込みかねなかった法律だとして、抗議をしたのも無理もないことだと私は思いました。

 それに対して今の日本について言えば、不平や不満はネット上にいくらでも溢れているものの、いざ実際に抗議行動を実行に移すものはおらず、そういった面でフランスの若者方が日本よりしっかりしている気がします。

Madeleine Sophie さんのコメント...

そうですね。初期雇用計画(CPE)の失業対策の効果にたいする説得力よりも、雇用主と労働者の不平等への反発が勝った例なんだと思います。雇用主が理由無く労働者を解雇でき、労働者側には対抗手段が無いということが問題になったような気がします。

人事、給与などの決定権を握る経営者側に対抗する、労働者側のほぼ唯一の手段としてストライキは容認されているんだと思います。不平等に対する犯行では、フランス人の行動力はびっくりです。

Céline さんのコメント...

大学も試験期間に入り、混乱を避けるために事務方も苦心をされているようですね。学生も事務方も、先生方もグレーヴには慣れっこですが、外国人留学生は柔軟に対応できずにかなり慌てふためいたり、怒りをアラワにしたりする印象を受けますが、それは図書館がしまっていたり、試験会場が変更になったり、急に講義が休講になっていたりすることに対応できない私だけでしょうか?

Madeleine Sophie さんのコメント...

Célineさん、
休講を事前に知らずに登校して無駄足になったり、図書館が使えなかったりで、思わず怒りが込み上げそうですよね。僕は、まだ授業ストライキにあったことがないので、実感はないのですが、「今期はこの授業の単位は廃止されるかも知れない」といわれた友人がいたそうです。それがもとで留年なんてことになったら、計画が崩れますよね。

僕はもともとストライキは行き過ぎだと思っているのですが、ストライキ支持派の言い分も一理あるぐらいには感じてきました。面白い問題ですよね。

かいあぽい さんのコメント...
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Madeleine Sophie さんのコメント...

かいあぽいさん、

ストライキはなんというか日常の風景になりかけてますけどね。デモ行進はお祭りでしょうね。特にすることのない人は、見に行ってみようかなみたいな感じで参加している人もいそうです。

フランスも大統領選挙があるのでその時はそのときで、ものすごく盛り上がってるんだと思いますよ。僕はサルコジ大統領が誕生した数日後にフランスに来たので、まだ大統領選挙は経験してませんが。日本にいたフランス人は大使館で投票できたそうですよ。

日本の失業している若者が行動しない理由は、自由主義=右派に対抗する平等主義=左派の論理がしっかりしてないのが一因かなと思いますね。左派の政党も無いのでどんな論理を振りかざして自由主義と戦えばいいのか分からないのかもしれませんね。あと、日本の場合は自由主義しか無くて、自由と平等という対立軸が無いのも原因なんでしょうね。

日本では失業は個人の問題だと思われがちですが、フランスでは失業は社会の問題だととらえられるのも違いますよね。フランスでは失業者は社会が悪くて、自分は悪くないと主張できるのが、抵抗を行動に移せる理由になっている気もします。興味深いですね。

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Madeleine Sophie さんのコメント...

かいあぽいさん、

詳しい説明ありがとうございます。自由主義=右派・平等主義=左派は、経済政策のことです。このテーマでは何個かエントリを書いていますので、ぜひ見ていってください。下のリンクで書評した本がすごく分かりやすかったのでオススメですよ。

競争の抑制によるソシアリスムの実現
[書評] 日本とフランス 二つの民主主義

フランスの政策ではリベラル=自由=右派=保守と、ソシアル=平等=左派=革新という対立軸があります。今のフランスではリベラルという言葉は肯定的な意味を持っていないそうです。「日本とフランス 二つの民主主義」という本には、

ちなみに、ヨーロッパではリベラルという言葉がそれほど肯定的な響きを持っていない。特に左派は、リベラルという語を嫌悪さえしている。, p73」

とあります。フランスは右派でさえ日本よりはソシアルで、「そんな政策はリベラルだ」というと、批判を含んだ調子になるそうです。経済危機のあとににわかに自由主義の弊害にうろたえる国より、フランスは早くから自由主義の弊害に気づいていたみたいですね。フランスの政策は参考になるところもあるように感じます。

リンクの記事は面白いですね。ありがとうございます。右派=自由となるのは、単にそれが現在のトレンドを保守する傾向にあるからそう呼ばれるのだと思います。市民革命以来、各人の階級の差がなくなり、自由な競争の結果、努力次第で裕福にもなれるようになりました。このトレンドを守るのが保守派=右派といわれます。

しかし自由な競争がもたらす物は、結局打ち倒したはずの階級格差と同じような貧富の格差だったことに気づき、自由なトレンドをひっくり返そうとする平等主義が現状では革新=左派と呼ばれるのだと思います。

左派と右派、保守と革新は相対的な物で、市民革命の頃は王党派が右派、自由が左派でした。例えば、これから100年ほどだって平等の社会が実現したら、平等が右派とよばれ、それを変革する思想が左派と呼ばれることになるでしょうね。

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Madeleine Sophie さんのコメント...

かいあぽい さん、

なるほど極右といわれるルペンを一番右においたイメージですよね。ルペンが右=保守といわれるのも、彼が昔のトレンドを保守する傾向だからだと思われます。市民革命以来、国を統べる王が倒れ、文化、言語、人種を基礎とする国民国家(幻想ですが)が出来ました。移民排斥、ナショナリズムというのは、過去のトレンドだったので、それを支持する人が右と呼ばれるんだと思います。逆に移民を受け入れ、移民を保護する政策を指示する人は過去と既存の枠組みを超えていくという意味で革新=左派と呼ばれます。

フランスのエリートの話はすこしエントリに書いていったので、ぜひ見てみてくださいね。たしかにフランスは超絶に仕事するエリートと、気ままに暮らし、エリートに不平をたらす市民という感じの図式が日本よりもあると感じます。
フランスのエリートとグランゼコール

ただ熱波による老人の死はあまり深刻にとらえられていないように感じます。フランスの一般家庭にはクーラーが無く、普通の夏はあまり暑くなりません。熱波が来た夏には脱水症状でなくなった方がたくさんいましたが、災害ということで落ち着いているような気がします。反対に、日本でも豪雪地方ではでは雪でなくなる方が毎年100人ぐらいいますが、東京の人はあまり気にしている人はいません。フランスでは日本では雪で100人真だといってニュースになっていたようです。

制度面では階級の差はないのですが、実際は、、、というやつですよね。それは、エリートの家系が固定化するようであれば、実質的な階級といえてしまうかもしれませんね。

「日本とフランス 二つの民主主義」は僕はオススメします。新書なので全ての議論を網羅しているわけではありませんが、基本を忠実に解説している本だと感じました。すこしズレているのではないかと感じる批評もありますが、全体的には参考になる書評だと思いますよ。

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Madeleine Sophie さんのコメント...

かいあぽい さん、

たしかに自由と平等を、経済の話に限るなら自由主義(リベラル)を新自由主義(ネオリベラル)とした方が分かりやすかったかもしれませんね。ただ、ヨーロッパでは単にリベラルといえば経済の話だと受け取られるように感じます。

この辺の混乱は米国のリベラルが宗教的にリベラルなことを指すのが原因です。米国ではリベラルといえば宗教に束縛されない人たちという意味になり、過去のトレンドを打ち破る革新=左となってしまいます。米国の人は宗教的リベラルと経済的自由主義を区別するためにネオリベラルを生み出したのかもしれませんね。米国ではリベラル=宗教的自由=左派となり、ネオリベラル=市場経済自由主義=右派となるようです。

ブログではフランスで使われるリベラルを自由主義と呼んでいて、米国での事情が頭から抜けていたかもしれません。自由主義と新自由主義を混同していたのではないことは指摘させてください。

僕は今のところ経済政策の対立軸は、自由と平等でいいのではないかと思っています。経済政策は結局は富の強制分配をどの程度行うかということに落ち着きます。このバランスの議論のことを記事にしましたのでぜひご覧ください。自由はこれまでのトレンドだったということで自由を支持する者を右派と呼び、そのトレンドを革新していく者を左派と呼ぶのが便宜的に一番理解しやすいかと思います。

右派と左派はバランスの問題世の中のトレンドが変化していく物である以上、そのトレンドを保守するか革新するかという分け方では、その対応関係も変化していきます。つまり「自由=右派」というのは永遠絶対の定義ではありません。時とともに変化する物だということを説明したエントリもありますのでご覧くださいね。

フランスと日本の右派・左派詳細なコメントありがとうございます。

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