2009年2月23日

[書評] 三国志の英傑たち

三国志の英傑たち (時代小説文庫)
1996年から2年ほどかけて著者が大長編小説『三国志』を書いたときに考えたことをつづっている本でした。著者の小説『三国志』の長いあとがきとのような内容でした。著者の小説『三国志』は、中国の正当な歴史書である「正史」と、中国民衆の間で親しまれていた物語の「三国志演義」をもとに著者自身が想像を膨らませて書いたものです。

正史は事実を並べているだけで記述はそっけないものが多く、演義は物語であるため誇張が多いという問題点を踏まえ、著者が登場人物の境遇や状況から人物の感情まで現実的に想像しています。三国志演義に出てくる大げさな挿話を廃し、正史のそっけなさを補うために、著者の小説ではオリジナルの挿話も含まれています。そういった挿話も著者自身による三国志を現実的に想像した産物です。

反董卓の戦いのときの曹操はこのように書かれています。
ぼくの『三国志』では、徐栄に大敗して帰った曹操にこんな台詞を言わせている。「私は戦って負けた。そして諸君は戦わずして負けたのだ。私は、戦わずして負けた諸君に、決別を告げる」自分は私利私欲のためでなく、戦うべきときに戦う。お前たちとは違う。曹操の諸侯に対する独立宣言だった。(p.54)
三国志のゲームをプレイするときは劉備でやることが多いので、曹操は敵だったのですが、やっぱり曹操は英雄としてかっこいいなと思います。陽月秘話: 中国人の好きなタイプによると、中国では曹操の人気はないそうです。この辺りの解説としては、『正史』を書いた陳寿の蜀へのシンパシーが曹操を乱世の奸雄に仕立てたと解釈されていました。
『正史』を書いた陳寿は、はじめ蜀に仕えた文官だった。...(略)... 蜀へのシンパシーが目立たないように『正史』の中に隠されていたのだ。つまり『正史』における歴史的正当性は当然のように曹操、魏の側に置かれているのだが、その裏に曹操を「乱世の奸雄」に仕向けてしまうようなスパイスも盛り込まれていたのである。(p.25)
他には、諸葛亮公明が劉備に「三顧の礼」で迎えられる場面は、劉備が諸葛亮に仕官を頼み込んだというように言われますが、著者は諸葛亮公明にも大きな野心があったと想像します。
『演義』には、「私は長年、農耕生活を楽しみ、世間に出るのは億劫ですので、ご命令に従うことはできません」と劉備の誘いを断る場面もあるが、ぼくが思うに、いかに時代や文化が違うとはいえ、若くして素質もある人間が、世の中から隠遁したままじっとしていられるはずがない。...(略)...曹操や孫権への士官も視野に入れていただろう。同時に、曹操にも孫権にもすでに優秀な幕僚がいることもわかっている。曹操が天下を取ろうと、孫権がそれを押しとどめようと、結局は自分は出来上がりかけた容器の中で歯車として働くしかない。(p.133)
諸葛亮公明は自分の能力を試せる、劉備の勢力についたという見方でした。劇的な三顧の礼よりも現実味のある想像だと思います。

三国志の英傑たち (時代小説文庫)
北方 謙三 (著)

序章 ぼくが『三国志』を書いた理由
1章 劉備・関羽・張飛—男の出会いとは
2章 曹操—覇道を歩む孤高の英雄
3章 呂布—時代を駆け抜けた戦人
4章 孫堅・孫策—志と非業の死
5章 孫権—赤壁の戦いへ一世一代の決断
6章 孔明—夢と現実を交錯させた戦略家
7章 三国時代の文化—英雄に不可欠な資質とは
8章 その後の三国志—四つのキーワード

三国志は、紀元二世紀末から三世紀にかけて、後漢の末期から晋王朝ができるまでの約百年間を舞台に、そこに群雄割拠した実在の英傑たちの歴史であり、同時 に歴史物語である。幾多の男たちが、それぞれの夢を追い求め、やがて死んでいく滅びの物語にファンは多い。この本では、乱世を生きた英傑たちの姿や魅力 を、ぼくなりの見方を加えながら語っていきたい—。北方謙三が語る『三国志』の醍醐味を纏めた待望の一冊。

2 comments:

花園 祐 さんのコメント...

 実を言うと私も曹操が三国志の中で一番好きなキャラなんですよね。歴史的に見たら明らかのあの時代の主役は曹操だが、世間一般では不人気なために、演義での彼は反逆者の一族を平気で皆殺しにする残酷さが描かれる一方、劉備が生きていることがわかるや曹操の元を離れようとする関羽に対して、
「一国の宰相として、君を快く送ってあげられない自分を深く恥じる」
 といって、最初に引き止めようとした行為を詫びるシーンもあるという、不可思議な二面性を持つ魅力的なキャラになったと言われています。

 諸葛亮の方が子供の頃は好きだったのですが、年取ると曹操の方に惹かれるようになったというのも我ながら不思議です。

Madeleine Sophie さんのコメント...

この著者も曹操がかなり好きなような印象を受けましたね。

「曹操は武将としてだけではなく、政治的手腕や文人としてもすぐれていた人であった。(p.151)」
「三国時代の覇者には武勇だけでなくて、国を一つ作り上げるのにふさわしい資質が求められる時代であった。その時代にあって曹操だけが突出して覇者にふさわしい資質を兼ね備えていた。(p.151-152)」

と書かれています。さらに孫氏の兵法を自ら研究し著作を世に出し、さらに詩の才能まであったそうです。まさに、英雄ですね。

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