2009年1月17日

[書評] これが中国人だ!―日本人が勘違いしている「中国人の思想」

これが中国人だ!―日本人が勘違いしている「中国人の思想」 (祥伝社新書 113)
中国のイデオロギーの歴史について書かれた本です。著者が高校の漢文の先生だったこともあり、興味を持って「[書評] ビジネスマンが泣いた「唐詩」一〇〇選」の次に手に取ってみました。本書では、まず中国の3大イデオロギーについて時代背景や思想の概要などが述べられています。3大イデオロギーの誕生からその後の展開までを順を追って説明しているのがすごくわかりやすいです。
さて、これでようやく「儒教」、「道教」、「仏教」の三大イデオロギーが勢揃いしました。孔子による儒家の誕生から前漢の武帝によって儒教が誕生するまでおよそ三五〇年、儒教の誕生から寇謙之による道教の確立まで六〇〇年、それから智者太師が中国仏教を確立するまで一五〇年かかったわけです。...(略)... これ以降の中国は出そろった三大イデオロギーがその時々の支配的イデオロギーとなって清王朝の滅亡までの一三〇〇年年間を彩ることになるのです。(p.98)


また、中国の歴史を研究することから、生まれる知見はなかなか示唆に富んでいて興味深いです。例えば、中国がもっとも栄えていた盛唐のころからの没落のところでは以下のように述べられています。こういった知見は現代においても正しいこともありそうです。
大国というのは、国民や指導者が大国であると意識していないことが肝心であって、無意識のうちに示される大らかさこそが大国を大国たらしめているのです。盛唐はまさにそうした時代でした。自国が大国であると意識し出すということは、すでに大国の座から滑り落ちている証拠であり、さらに没落が進むと大国であることを力説する主張が出現するのです。(P.115)
また、大国から没落した中国(漢民族)が異民族に蹂躙され、支配される時期が訪れ、中国人のトラウマのルーツになっていると説きます。そしてそのトラウマに日本人が無知すぎることが指摘されています。漢民族が初めて異民族に支配された「靖康の変」は(偶然にも?)靖国神社と同じ頭文字であることは知りませんでした。
北宋がほろんでから1949年に中華人民共和国が誕生するまでの約 700年のうち400年間は異民族に支配されたり蹂躙されています(p.138)
中国の歴史というと、唐代くらいしか思い浮かばない日本人には宋代の中国の受難と屈辱の歴史はピンときません。その受難が民族的なトラウマとなって現在の中国人にまで及んでいることに気づこうとすらしません。...(略)...少なくとも靖国神社参拝を強行する政治家は、「靖国神社」と「靖康の変」が同じ頭文字を持っていることくらいは認識しておくとよいでしょう。(p.138)
最終章の「第8章 まとめと予測—真の大国になれば全人類の利益になる」では、著者の考えは僕の考えと相当近いと感じました→「[まとめ] 将来の日本と中国との関係について考える」。ただし、著者の中国に対する知識と知見は、僕とは比べ物にならないので、説得力は段違いです。このブログの中国関連のエントリーに興味を持った方は、この本はかなりのオススメです。
残された20年たらずの期間をどれほど懸命に利用したにせよ、中国の政治的かつ社会的混乱は避けられないでしょう。問題は、混乱をいかに最小・最短に抑えるかです。そのために日本がなすべきことは、中国の混乱につけ込んで内政干渉をしたり火事場泥棒的な振る舞いをしないことです。(p.224)
最後に、この本を読んで先生の高校での授業をたくさん思い出しましたが、中でも一番思い出した話を書いておこうと思います。それは、宦官に関するところです。
①宦官・②科挙・③纏足を俗に中国の三大奇習といいますが、三者とも始まったのは唐代ではありませんが社会にしっかりと根を下ろしたのは唐の時代です。(p.114)
宦官は男性がきん玉を取って、後宮に使える風習のことです。最初はナイフで切り取るだけだった手術も後になって発達してきたと教わったと記憶しています。まず、縦にに切れ目の入った竹の棒2本で玉袋をきつく縛り付けます。そしてカミソリを縦の切れ込みに入れると血が出ずに切断できるそうです。あとは、傷が塞がるまで竹の棒を縛ったままにしておくと安全に切除出来るそうです。切除した袋は日干しにして持ち歩いたり、保存したりするそうです。この話は、生意気盛りの男子校の生徒を縮み上がらせていたことを思い出しました。10年経っても覚えているので相当インパクトがあったんだと思います。著者プロフィールにある「同校生徒のアンケートで最も人気のある授業をする先生として親しまれてきた。」は伊達じゃないです。
これが中国人だ!―日本人が勘違いしている「中国人の思想」 (祥伝社新書 113)
佐久 協 (著)

第1章 春秋・戦国時代のイデオロギー
—人治主義のDNAがしっかりと組み込まれた;
第2章 秦・漢時代のイデオロギー
—永続する一つの国であるという認識が生まれた;
第3章 三国・晋・南北朝・隋時代のイデオロギー
—儒教、道教、仏教の三大イデオロギーが揃った;
第4章 唐時代のイデオロギー
—美意識と亭楽主義が定着し平等意識も誕生した;
第5章 宋・元時代のイデオロギー
—民族意識の強固さはモンゴル支配の屈辱が原因;
第6章 明・清時代のイデオロギー
—近代的な国家意識が芽生えて孫文が登場した;
第7章 中華民国と中華人民共和国のイデオロギー
—〓(とう)小平の改革開放と先富論が国を覆った;
第8章 まとめと予測
—真の大国になれば全人類の利益になる

いったい中国人とは何者なのか。彼らは何を考え、何を信じているのだろうか。同じ漢字を使うからといって、中国人は身近な存在ではありません。漢民族には宗教も神もなく、道徳すらも定着しませんでした。儒教は韓国に、仏教は日本に、道教は香港や台湾に逃げ出してしまい、中国は真空状態。絶えず道徳を唱えているのは、道徳が根づいていない証拠です。古代から現代までの中国思想を楽に読み通すために、本書は書かれました。たびかさなる戦乱を生き延びる知恵を、いかに身に付けたのか。その知恵とはいったい何か。一筋縄ではいかない謎の民族・中国人の発想が明かされていきます。日本人の知らない中国人がここに。

1 comments:

Agalma46 さんのコメント...

この方は知りませんが岡田英弘の見解や外国で中国人に接して感じる彼らの国家観からみて見当外れなやうな気がします。
中国人や中国語は日本語のやうには存在しなかつたし、日本人のやうに国に依存するといふことはないやうです。
社稷共同体が実際に生きてゐるといふことかも知れませんが。
フランスでも同様だと思ひますが日本の留学生がひ弱で能力を発揮できない理由を考へたことがありますか?

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