2008年12月3日

[書評] 日露戦争に投資した男 ユダヤ人銀行家の日記

日露戦争に投資した男―ユダヤ人銀行家の日記 (新潮新書)
ロシアとの戦争には国家予算の6倍以上の戦費が必要でそのうち四割、つまり国家予算2.5年分のお金を貸してくれた人物がシフという人物です。この本はシフの生涯について書かれているものではなく、第一章にシフと日本の関わり、第二章に原題「Our Journey to Japan」を翻訳したものが収められています。

日露戦争においてシフが日本に肩入れした理由は、ユダヤの同胞を苦しめるロシアを牽制するためだと言われています。しかし、投資家としてのシフはもちろん投資の採算も計算に入れていたことでしょう。
全米ユダヤ人協会会長も務めるシフという人物が、ユダヤ同胞に圧政を敷くロシアに打撃を与えたいと考え、日本を支援したことには疑いを入れない。しかし、フランクフルトからアメリカに来たドイツ系アメリカ人でありながらアメリカ金融界の頂点にた取り付いた男が、日本に肩入れすることにビジネス・チャンスを見いだしたとしても矛盾しない。(p.44)
つまりシフは、ユダヤ人として反ロシアの姿勢をとったことと、日本に対して投資対象としての魅力を感じていたことのどちらもがあったと考えられます。シフの中でどちらの考え方が優勢であったかは興味深いです。種明かしのようで心苦しいですが、あとがきに、ある教授の分析として、投資対象の日本という考えが60パーセントを占めていたとの意見が提示されています。
二〇〇五年五月に小村寿太郎の生地・宮崎県飫肥(現・日南市)で開催された「日露戦争・ポーツマス条約締結百周年記念国際シンポジウム」で、パネリストからシフの動機を問われた高橋是清研究科のリチャード・スメサースト(米ピッツバーグ大学教授)が「[経済的動機が]六〇パーセント」と答えたのが印象的だった。(p.212)
日本を投資対象としての見ている割合が60パーセントというのは、どう感じますか。その時代で最も名高く有能な投資家が日本の国家予算の倍以上の資金を運用するのに40パーセントも運用益以外の検討事項が入るというのは、相当高い割合だと感じました。

シフの日本滞在の印象は非常に良好です。また、日本人がシフに対する態度は国が始まって以来最大の敬意を示すような対応です。だれもが日露戦争中のシフの好意に対し感謝を示し、代金を受け取らない日本人も書かれています(シフは無理矢理払いますが)。即興で日本画を描く催しで、シフは感動します。
こういった日本流のもてなし方は、実に素晴らしい。またもその好例を見せてもらったわけだ。しかし、駐日アメリカ代理公使のウィルソン氏がこの席で語ったところによると、日本滞在が長い人でも、来日して一ヶ月足らずの我々が味わっているこのような機会を持ったことがない人が多いという。(p.144)
また、日記のいろいろな部分から日本に対して好感を持っていることが分かります。
裁縫教室やいろいろな学科ものぞいてみたが、あらゆることに真剣かつ几帳面な態度で取り組むのには感動した。少女達の慎み深さ、機転、礼儀正しさは際立っていたが、庶民さえも例外なく、親切で謙虚で行儀の良い日本人という従来の印象が深まるだけのことだった。(p.160)
この日記は毎日詳細に書かれいるのは、何故なんだろうと不思議に思いながら読み進んでいきますが、最後にこの日記の意図が明らかになります。シフは「急激に変貌する文明や今後の歴史で重要な役割を演ずる国々への興味」を書きとめておくことを動機としていたようです。
この旅は生涯最大の出来事で、この後も長年にわたって回顧することを許されたい。おそらくこの楽しい旅行記が、われわれの死後も孫や子に対し、急激に変貌する文明や今後の歴史で重要な役割を演ずる国々への興味を刺激してくれることだろう。(p.210)
日露戦争に投資した男―ユダヤ人銀行家の日記 (新潮新書)
田畑 則重 (著)

第1章 ウォール街の巨人ジェイコブ・シフ高橋是清への指令
  • 開戦前夜の「困難」
  • ロンドンでの邂逅
  • 戦場以外の地道な戦略 ほか
第2章 シフ滞日記—Our Journey to Japan
  • ニューヨークから大陸横断鉄道の旅(一九〇六年二月二二日~三月七日)
  • マンチュリア号でハワイを経て横浜へ(三月八日~二四日)
  • ミカドの謁見。すばらしい午餐会(三月二五日~二八日)
  • ミカドの都。上野、増上寺、招魂社(三月二九日~四月一日) ほか
ジェイコブ・シフ、ドイツ系ユダヤ人でウォール街を代表する投資銀行家—。この男の助けがなければ、日本は日露戦争に勝てなかった。国家予算の六倍以上の 戦費をつぎ込み、継戦不可能というギリギリで掴んだ戦勝。その戦費の約四割を調達したのがシフだ。なぜ彼は極東の新興国日本を支援したのか?その生涯、対 日支援の動機とともに、叙勲のために招待された際の「滞日記」を、日本にはじめて紹介する。

6 comments:

花園 祐 さんのコメント...

 日露戦争で大幅な戦費が消費されたことは知っていましたが、その大半をユダヤ人が出していたということは知らず、面白く記事を読ませてもらいました。
 敢えてここで穿った見方をすると、現在のアメリカにおけるユダヤ財閥は戦争をわざと起こさせ、その際の投資によって利潤を得ているといわれてますが、この頃からもそうだったのかなぁと一読して思いました。

 しかし大国ロシアに当時の日本が勝利すると予想して投資するというのは、大した慧眼だと言わざるを得ません。そう思うと、ユダヤ人は本当に粒ぞろいですね。日本だとこういうタイプの人材はあまり出てこないでしょうし。

Madeleine Sophie さんのコメント...

花園さん、

戦争のユダヤ人陰謀説はたまに聞きますよね。まったく見当違いと言う訳ではないから、そう言われるのかも知れませんね。

未来を見通し、リスクをとって投資し、アメリカ政府なども動かしつつ、感謝もされ、しかも利益も上げられる、そして自分の同胞を助けるという夢も実現するすることを思いつき、しかも実際に実行したのは本当にすごいですね。

Takoo さんのコメント...

こんばんは、リヨンに留学中のtakooというものです。
いつもブログ楽しく読ませてもらっています。


個人的に、日露戦争には坂の上の雲を筆頭にさまざまな小説を読んでいて、かなり興味がある分野です。

ダルマ蔵相高橋是清が、ヨーロッパを中心に資金繰りにが奔走したが欧州は当時どちらかというとロシア寄りの人が多く、相手にされず、やっとニューヨークでシフと出会い日本の危機を救ったという流れのようですが、ここまで、経済的動機が高いとは思いませんでした・・・。

さすが、ゴールドマン・サックスや昨今潰れてしまったリーマンを筆頭にウォール街を支配するユダヤ・パワー・・・。

当時から凄かったんですね!

長文失礼しました。

Madeleine Sophie さんのコメント...

takooさん、ありがとうございます。

司馬遼太郎の「坂の上の雲 (文春文庫)」は僕も読みましたよ。全8巻でしたが面白くて一気に呼んでしまいました。

高橋蔵相がシフに会ったのはロンドンらしいです。定説では以下のように二人は偶然会ったことになっていますが、実はシフが周到に計画していたことが分かっています。優秀なユダヤ人の実行力には感心させられます。

ロシアへの敵意を比べると、半分以上は経済的動機だったようですね。彼の頭の中ではロシアへの牽制と経済的利益の両方を達成できるから実行したのでしょうけどね。

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Electronic Journal: ジェイコブ・シフとの出会い(EJ1736号)
高橋はヒル邸で行われた晩餐会において、ジェイコブ・シフというユダヤ系米国人と知り合いになるのです。シフはニューヨークの投資銀行クーン・ロープ商会の首席代表であり、毎年恒例のヨーロッパ旅行のさい、たまたまロンドンに立ち寄ったところ、ヒルから晩餐会に招待を受けたと高橋に伝えていたのです。

サカタ さんのコメント...

 ユダヤ人が戦争での利益を上げているのであれば、ヒトラーのとったユダヤ人の虐殺なんかはある程度的を得ていたのかもしれませんね。でも、ユダヤ人にしてみれば同胞を殺させてしまっていたわけだから、もし第二次世界大戦でユダヤ人が利益をあげていたら普通は止めるほうに働くと思いますけどね。
 それにしても、日露戦争では日本はイギリスの軍艦が何隻もあったみたいですし、そのような大金をどっから用意したのかという謎がこの記事を見てとけた気がしました。
 それと、当時日本がロシアに勝てると予想する人がいたなんて驚きです。何百年も続いたオスマン帝国がロシアに負けてアジアはヨーロッパ勢には適わないと言われていた状況で予想できるなんて驚きです。

Madeleine Sophie さんのコメント...

ユダヤ人の虐殺は他人の国に入り込んできて羽振りのいいユダヤ人への反感があったのではないでしょうか。ヒトラーは民衆の反感につけ込んで人気を得たのではないかと思います。
勝敗を予想したのか、日本の債権返済のまじめさを見込んだのか、両方だったのか。最初の時点では日本の勝利を確信することは難しかったと思うのですが、未来を正確に見通せる人間もいるのですかね。

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