2008年10月17日

博士課程に進む意義


Paris, France
[書評] 高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院」のエントリの続きです。「本書は、博士課程に進む学生が読むと憂鬱になるタイプの本だと思いますが、僕は逆にやっぱり博士課程に進学してよかったなと思いました。」の理由について書いていこうと思います。まず、僕自身が工学の博士課程に在籍しているので、それに工学の博士課程の状況に偏ると思いますが、思ったことを書いていきます。

まず、状況として博士号を取得する人が増えていることによって、多くの人が職を手にすることが出来にくい状況が生まれているそうです。上の書にあるように、大学のポストだけを求めるのは、危険だと言うのは納得です。
そう考えると、遮二無二、専任教員になることだけを目指すことは、危険極まりないことではないだろうか。四〇歳や五〇歳になって、無職に転落した博士は、いったいどうやって生きていったら良いのか。三十代のノラ博士でさえ、ツブシがなかなかきかず、苦しんでいるというのに。(P.163)
工学の博士号を取得すれば、企業に就職する道はそれほど険しくないと言われています。このまま博士号を持つ研究者が増え続ければ、30代の学生が博士号を取得して社会で働く三十余年の間には、同僚、後輩の大半が博士号を持つ状況が生まれるでしょう。博士号が無いことを理由に希望する仕事ができない状況が生まれるかも知れません。それが、今から博士号を取得しておいた方が良いと考える第一の理由です。

英語では、博士号を持った人は必ずドクターと呼ばれ、それ以外の人がミスター、ミセスと呼ばれるため、明確な区別がなされます。実際、博士号の有る無しは、研究者にとって大きな要素となり始めています。博士号を持たない上司と博士号を持った部下が海外の研究所に視察に行き、その一団を迎えた研究員が、部下の博士だけに語りかけたというような話も聞いたことがあります。博士号が研究の最低限の能力を証明する運転免許のようなものになる日が来るかもしれません(免許は運転手の飛び抜けた運転能力を保証する訳ではありませんが、最低限の能力を保証しています)。

第二に、フランスのシステムとしては、技術者にもこう言った免状(diplôme d'ingénieur)があります。技術者は医者や弁護士とは違い免状が無くても職に就くことは出来ますが、免状を持った技術者はいろいろな面で優遇/重宝される状況にあります→技術系のグランゼコール。技術が専門化するに従って、それらを専門に学んだ者が重要性を増してくるかもしれません。研究者における博士もそのような状況になるかも知れません。
Diplôme d'ingénieur - wikipedia
ディプロム・ダンジェニュール(diplôme d'ingénieur)は、エンジニアリングの独立した学校か、エンジニアリングの内部の学校と共の大学によるフランスの高等教育の免状である。
The diplôme d'ingénieur is a French diploma of higher education awarded by French institutions which can be independent schools of engineering or universities with internal school of engineering (they are often known as grandes écoles).
それでは、直接企業の研究と結びつかない文系の博士号(例えば、歴史、哲学)を取る利点はどのようなことが考えられるでしょう。価値観は人それぞれですが、僕はやはり、自分が人生において何かを成し遂げたいと言う欲求を満たすための過程というように捉えるのがよいのではないかと思います。博士号を取るということは、先人がまだなし得ていなかったことをなし得た結果です。それは、人類の知恵と知識を前進させたことになります。30歳で博士号を取ったとして、多くの人がその後50年ほどで人生を終えることになります。博士号(特に文系)は人生を終える時に、その50年のうちに人類の知恵と知識をほんの少しでも進めたという満足感で満たされたいという人が選ぶ道なのかも知れません。

ただ、その道を選択することがあまりにもリスクの高いことであるのは問題です。博士号を上のように捉えることによって、「[書評] 高学歴ワーキングプア」にあるような、博士号を取り巻く社会の問題に目をつぶることは、当然出来ません。
つまり、重点化による余剰博士問題は、「優秀でないから、ノラ博士になっているのだ」という論理である。もちろん、こうした考えが、まったく本質からはずれたものであることはすでに見て来た通りだ。社会における構造的問題を個人の問題としてすげ替えていこうとする動きは、枚挙にいとまが無い。(P.152)

1 comments:

匿名 さんのコメント...

◆技術者等の非正規雇用を明確に禁止すべき

▼民主党は、マニフェスト案において、『原則として製造現場への派遣を禁止』とす
る一方で、『専門業務以外の派遣労働者は常用雇用』としています。『専門業務』の
『常用雇用』が除外され、かつ『専門業務』に技術者 (エンジニア) 等が含まれると
すれば、これは看過できない大きな問題です。
技術者 (エンジニア) 等の非正規雇用 (契約社員・派遣社員・個人請負等) を明確
に禁止しなければなりません。
改正前の労働者派遣法に関する「政令で定める業務」の内容は、技術の進展や社会
情勢の変化に対し時代遅れになっており、非正規雇用の対象業務を、全面的に見直す
必要があります。
また、派遣社員だけではなく、「契約社員」・「個人請負」等を含む非正規雇用を
対象としなければなりません。

【理由】

●技術者等の非正規雇用が『製造現場』の技能職に比べて、賃金・雇用・社会保険等
において有利だという誤解があるならば、そのようなことは全くない。長時間労働
など過酷な労働環境に置かれている割には低賃金の職種で、雇用が安定しているか
というと、『製造現場』の技能職以上に不安定である。

技術者等が『製造現場』の技能職に比べて過酷な労働環境に置かれているにもかか
わらず、非正規雇用として冷遇されるのであれば、技術職より技能職の方が雇用・
生活が安定して良いということになり、技術職の志望者が減少して人材を確保でき
なくなる。努力して技術を身につけるメリットがなくなるため、大学生の工学部・
理学部離れ、子供の理科離れが加速する。一方、技能職の志望者は増加し、技能職
の就職難が拡大する。

●技術者等の非正規雇用が容認されると、マニフェスト案『中小企業憲章』における
『次世代の人材育成』と、『中小企業の技術開発を促進する』ことが困難になる。
また、『技術や技能の継承を容易に』どころか、逆に困難になる。さらに、『環境
分野などの技術革新』、『環境技術の研究開発・実用化を進めること』、および、
『イノベーション等による新産業を育成』も困難になる。

頻繁に人員・職場が変わるような環境では、企業への帰属意識が希薄になるため、
技術の蓄積・継承を行おうとする精神的な動機が低下する。また、そのための工数
が物理的に必要になるため、さらに非効率になる。事業者は非正規労働者を安易に
調達することにより、社内教育を放棄して『次世代の人材育成』を行わないように
なる。技術職の魅力が低下して人材が集まらなくなるため、技術革新が鈍化、産業
が停滞する。結局、企業が技能職の雇用を持続することも困難になる。

●派遣社員だけではなく、「契約社員」・「個人請負」等を含む非正規雇用を対象と
しなければ、単に派遣社員が「契約社員」・「個人請負」等に切り替わるだけで、
雇用破壊の問題は解決しない。

企業は派遣社員を「契約社員」や「個人請負」等に切り替えて、1年や3年で次々
に契約を解除することになり、現状と大差ない。

▲上記の様に、『製造現場への派遣を禁止』するにもかかわらず、技術者等の非正規
雇用 (契約社員・派遣社員・個人請負等) を禁止しないのであれば、技能職より雇用
が不安定となった技術職の志望者が減少していきます。そして、技術開発・技術革新
や技術の継承が困難になるなどの要因が次第に蓄積し、企業の技術力は長期的に低下
していきます。その結果、企業が技能職の雇用を持続することも困難になります。

これを回避するには、改正前の労働者派遣法に関する「政令で定める業務」の内容
を見直して技術者等の非正規雇用を禁止し、むしろ技術者等の待遇を改善して、人材
を技術職に誘導することが必要です。これにより、技術者等は長期的に安心して技術
開発・技術革新に取り組むことに専念できるようになります。その成果として産業が
発展し、これにより技能職の雇用を持続することが可能になります。

もしも、以上のことが理解できないのであれば、管理職になる一歩手前のクラスの
労働者ら (財界人・経営者・役員・管理職ではないこと) に対し意識調査をするか、
または、その立場で考えられる雇用問題の研究者をブレーンに採用して、政策を立案
することが必要です。

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