2008年10月10日

[書評] アメリカもアジアも欧州に敵わない―「脱米入欧」のススメ

アメリカもアジアも欧州に敵わない―「脱米入欧」のススメ (祥伝社新書)
この本は、「複雑な歴史の上に成立したヨーロッパ諸国の知恵を借りた方が良い」という著者の意見について書かれているもののはずです。プロローグとエピローグでそう書かれていたので、間違いないと思います。しかし、その他は、ヨーロッパの歴史、文化、グルメ、言語などについて著者の知識が広く披露されているというだけに見えました。プロローグに以下のように書かれているのが、それに当たるようです。
そして同時に、本書は少しレベルの高い教養を持った方々のためのヨーロッパ旅行案内書としても楽しんでいただけるように工夫した。(P.18)
知らなかった知識なども多く、得るものはあるのですが、肝心の「アメリカもアジアも欧州には適わない」という命題の根拠は詳しく述べられていないように感じました。はっきり言うとヨーロッパ・バンザイな著者の思い込みのようなものです。本のまとめであるエピローグから引用して、本書の意図を理解しようと試みます。
ヨーロッパは単独でもアメリカと対峙できる規模を備えたのである。まして、日本がヨーロッパと組めば、勝敗の帰趨はそれだけで決まるのだ。... (略)... 何も、アメリカの世界支配を崩すために、しゃかりきになれというのではないが、アメリカが傲慢になりすぎないためにも、日本はヨーロッパ・カードを活用すべきなのだ。さらにいえば、日本は植民地経験がある国々とは違って、ヨーロッパ各国とまんべんなく長く深い交流があり、アジアの中でヨーロッパといちばん 自然に理解し合える国なのだ。(P.261)
現在アメリカと親密すぎる関係を、アメリカとヨーロッパを等距離においた関係にするか、ヨーロッパを重視する関係に変えるかというような提案をしています。結論は日本が今後取り得る選択ではあると思いますが、その根拠が明らかではありません。ヨーロッパ・カードを使って、日本の立場を良くすると言うならば、1. 現在日本がアメリカから受けている利益と、2. アメリカとの関係を弱めることの不利益、3. ヨーロッパを重視することによる利益を分析する必要があるはずです。これが無い結論では、著者の思い込みと感じてしまいます。

エピローグにあるように、「ヨーロッパ旅行案内書(P.18)」として読むのが良いのかもしれません。以下の文章は同意しました。
フランス人やスペイン人のように海外で多くの人が自国語を話している国民は、外国語など出来なくてもあまり困らないので、自然と外国語が苦手になる。フランス人は誇り高いから英語をしゃべらない、などというのは嘘だ。かれらは英語が意識面も含めて苦手なのだし、どうしても、しゃべらなければいけないと言う場面も少ないのだ。日本でも高校を卒業していれば、六年も英語を勉強しているのだから、まったく英語が話せないなどということは、あるはずがない。だが、できなければできないで済んでしまう。東京のタクシーの運転手もパリの同業者も事情は同じなのだ。(p. 147)
フランス人は英語をしゃべりたがらないです。それでも一般的には、日本人よりはしゃべれますが。日本人を良く知る友人は「日本人は英語をしゃべれないけど、フランス人はフランスから出ると英語をしゃべる」と言っていました。

個人的には文章が少し鼻につくような気がしました。感覚の問題ですが、このエントリで引用したところでも、「少しレベルの高い教養を持った方々」や「〜などというのは嘘だ」(騙されている日本人がいるけれども?)のような箇所です。本書全体に渡って、そのような印象を受けました。著者は東京大学法学部卒業で、フランス国立行政学院(ENA)に留学していたそうです。
アメリカもアジアも欧州に敵わない―「脱米入欧」のススメ (祥伝社新書)
八幡 和郎 (著)

目次
プロローグ アメリカもアジアもヨーロッパに敵わない
第1章 ヨーロッパには、なぜたくさんの国があるのか
第2章 キーワードで読むヨーロッパ史
第3章 ロシア&東欧のめざましい変容
第4章 北欧&西欧に見る二一世紀の実験
第5章 英語だけではヨーロッパは分からない
第6章 ヨーロッパ・グルメの真髄
第7章 ヨーロッパ文化の精華を見る
第8章 統合ヨーロッパはどこへ行く
エピローグ なぜ、いまヨーロッパなのか

新しい世界の秩序は日本と欧州(ヨーロッパ)が作るのだ
アメリカとのつき合いには限界がある。
ヨーロッパ見所ガイドつきのニュー・新西洋事情
<本書の内容>
● 世界はヨーロッパ文明のもとで動いてきた
● 日本の戦後改革は「脱欧入米」だった
● 王様たちの愛と欲望が、欧州各国を作った
● サッチャーとキッシンジャーのフランス革命論争
● 日本人を怖がるロシア人
● 本当は裏で繋(つな)がっているフランスと英米
● ヨーロッパの首都をめぐる争い
● アメリカという国の宿命的な限界
● ヨーロッパ統合が世界を救う理由(わけ)
<手本はヨーロッパにある>
明治以来、日本はヨーロッパのすぐれた制度を学び採用してきた。第二次大戦後、それがすべてアメリカへ転換していった。それがここにきて、さまざまな歪 (ゆが)みを生じてきた。〈学ぶべきなのが米国流のグローバリズム、米国的な価値感絶対主義、多国間の話し合いより二国間交渉優先といった考え方だけかというと、そんなはずはない。むしろ、ヨーロッパにこそ、われわれがモデルとすべきものは多いはずだ。(中略)本書は、欧州各国、およびその文化や国民性がどのように成立してきたのか、生活大国、幸福大国としてのヨーロッパの素晴らしさを考えてみたい〉(「プロローグ」より)

0 comments:

コメントを投稿