2008年10月2日

[書評] 新・戦争学

新・戦争学 (文春新書)
本書は過去の戦争の推移と軍事理論とあわせて解説している歴史書として読めます。日本では自分たちの世代はおろか、親の世代ですら戦争を知らない世代となっています。自衛隊も戦後60余年、戦闘には一発の銃弾も使用していないそうです(参照)。核戦争の恐怖から、もう大規模な戦争は起こらないと考えている人が多い気がします。もし起こっても日本から遠い地域の局地戦だと考えるでしょう。本書には、戦争が起きる理由として、以下のように書かれています。
外交は三権(主権、覇権、利権)を追う。国家の欲望を追求するのだ。「外交は妥協の芸術」という金言を忘れて、下手な外交はしばしば三権を追う過程において相手国に屈辱を与える。だが、一国の指導者で「国家の威信」守らないものはいない。国家の威信を守らない指導者は、権力の座に踏みとどまることができないからである。...(略)...国家が三権に欲望をもち、威信という誇りを失わない限り、世界から戦争がなくなることはない。「欲望と怨念は戦争の卵」という格言は二十一世紀も生き続けるであろう。(P.25)
日本ももちろん、主権と利権は追っていますし、覇権国家のアメリカと軍事同盟を結んでいます。文字通り三権(主権、覇権、利権)を追っている状態だといえるでしょう。また、日本へ屈辱を与えられる局面で「国家の威信を守らない指導者は、権力の座に踏みとどまることができない」というのも、おそらく正しいと感じます。現状の平和な日本でも、手放しで今後戦争の危機はあり得ないとはいえないと思います。

読んだ後に心に残ったところを拾っていきます。まず、第二次世界大戦の勝敗分岐点を解説するところで、その分岐点が見える指揮官の資質として以下のようなものを挙げています。太字ともに本書通りです。
歴史をひもとけば、アレキサンダー大王、ジンギス・カーン、フレデリック大王、ナポレオンなどの英雄達は、若い頃、地獄を見る不遇の環境に落ち、そこから這い上がって来た人達である。だから戦争における勝敗分岐点が見え、敗北を見限って鮮やかに退却できる。しかし、順風満帆にエリートの階段を上って来た指揮官は、敗北の地獄の味を知らない。...(略)...「指揮官にエリートを選ぶな!敗北の味を知っている人材を選べ!」。これは人事の鉄則である。そして、そんな青年は必ず存在する。(p.100)
ビジネスや研究などの他の分野でも勝敗分岐点に敏感になることは重要な意味を持っています。自分もそこまで痛烈な敗北の地獄の味は知らないような気がするので、勝敗分岐点には鈍感である(かもしれない)ことを忘れないようにしたいです。

次に、米軍のベトナム戦争の失敗に付いての解説です。政治家が軍事理論を無視したための失敗だったと解説されています。
さらに米軍はベトナム介入に「エスカレーション(交渉の結果に応じて攻撃の程度を段階的に高める)戦略」を採用した。これは一つの外交戦略であったが、軍事理論としては原則からはずれた「戦力の逐次加入」という最悪の戦略であった。政治家は外交理論と軍事理論を混同しないことが大切である。(p.137)
米政府は米・ソ、中の直接的な戦争に発展しないよう、軍事作戦目標と陸軍の作戦地域を限定した。およそ軍事理論からいえば、陸軍の作戦地域は作戦目標に応じ、軍事的合理性に基づいて決定されるはずのもので、政治的に制限された作戦地域に、陸軍を絶対に使用してはらなないのだ。このことを米国の政治家はわかっていなかった。(p.138)
一理はあるんでしょうが、やはり軍隊は政治的制約のある範囲内で戦わなければならないのだと思います。政治家は戦争拡大のリスクを鑑み、相手との交渉の余地を残した上で、政治的な制約を軍隊に与えているのであって、彼らが定めた作戦範囲で軍事行動を成功させるプロフェッショナルが軍人だとするべきです。軍人は、政治家は外交という政治によって国の利益を追求するプロフェッショナルだと信頼して、政治的制約のある作戦範囲で行動してほしいと思います。

また、筆者のいうように「政治的に制限された作戦地域に、陸軍を絶対に使用してはらなないのだ」というのが正しいとすると、陸軍は政治的に制限されていない作戦地域でしか活動できない軍隊になってしまいます。政治のない戦いはおそらくほとんどないので、使えない軍隊となってしまいます。ベトナム戦争の軍事的失敗と、米ソ全面対決の回避と言う結果から見ると、政治家がリーダーシップを取ると戦争は失敗しやすくなる反面、戦いが拡大したりするより大きなリスクが減り、軍人がリーダーシップを取ると軍事行動は成功する可能性が上がる反面、より大きな視点でのリスクが増大すると言えるかもしれません。
新・戦争学 (文春新書)
松村 劭 (著)

第1章 戦争を考えるために
第2章 第二次世界大戦前夜
第3章 第二次世界大戦
第4章 冷戦下の制限戦争
第5章 ポスト冷戦の局地戦争

世界の紛争に目をやれば分るように、戦争の危機は身近なところにたえず潜んでいる。本書は、在日米軍との共同作戦計画にも携わった自衛隊の元作戦幕僚が、 第二次世界大戦から朝鮮戦争やベトナム戦争、中東戦争や湾岸戦争などに至る近・現代の戦闘を検証し、戦争のテクノロジーを明快に説いた、類書のない画期的 な戦略・戦術読本。前著『戦争学』同様、経営戦略や人生の知嚢としても、おおいに役立ちます。負けられないあなたのための、この一冊。

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