2008年8月5日

[書評] 大丈夫な日本

大丈夫な日本 (文春新書)
この本はおすすめできません。感じ方は読者によって違うので、本ブログの書評は僕には面白くない本も面白かった部分だけ抜き出して記録しているのですが、この本は面白かった部分を抜き出すより、共感できなかったところを抜き出す方がよいです。というのも、この本をそのまま信じるのがかなりまずいからです。

この世界は、石油を燃料にして加速し続け、規模を拡大し続けなければシステムが維持できない資本主義のシステムによって動いています。いつか限界が来ることは誰もが知っています。しかし、社会で働き、生きていくには、この拡大し続ける仕組みに従っていくしかありません。本書では、1〜3章で、この問題に対する解答として、日本の江戸時代を挙げています。妥当な論理もありますが、言うなれば「昔に戻れ」ということです。石油も自動車も無い社会では確かにはるかにエコなシステムを実現できるでしょう。でも、それが出来ないから難問なのです。

「第4章 世界の覇者アメリカが堕ちるとき」では、20世紀のイギリスの没落をもとにアメリカの落日を論じています。歴史上、永久に覇者だった国は無いのですから、大げさに解説しなくとも常識というべきでしょう。

5章の中国関連は予備知識が無く信じてしまうと最も危険です。恥ずかしながら3〜4年前には、僕自身もこういった考え方をしていたと告白します。まず、日本の対中政策への提言です。
対日本で、米中の手を組ませないというのは、日本の地政学的な政策の、基本中の基本なのです。アメリカが今後、戦前にもあった中国への錯覚、「戦略的パー トナー」のような幻想と甘い思い込みに引きずられないように、日本はさまざまに働きかける必要があります。(P. 154)
ようは、米中が仲良しにならぬように常に邪魔をしろということです。言いかえると米中対立は日本の利益になるということです。本当にそうでしょうか?そうではありません。共に覇権を目指すアメリカと中国が激突することこそ、日本を危機に陥れると考えます。核兵器を所有する米中二大大国の覇権争いに、アメリカの前線基地となった日本が、参戦するのが利益でしょうか...。逆に米中の関係が険悪になったら、日本が二国の手を携えるぐらいの度量が必要だと考えます。日本の指導者が上の引用のような稚拙な論理に惑わされることは無いでしょうが...。

次に、中国関連の経済の話。
1992年、鄧小平が広州などをまわった時に発表した南巡談話には、「成長は全てを解決する」という一節がありました。それを実現するために中国がやって来たことは、まず外資を導入し、合弁企業をつくり、そこで徹底的にノウハウを盗む。その後は、そのノウハウを使って別会社をつくり、別会社が順調に動き出すと、元の合弁企業に難癖をつけて潰してしまうか、撤退させてしまう。そういう方法で、あらゆるモノをつくってきました。 (P. 174)
中国はノウハウを盗みながら、成長するらしいです...。まるで昔、ヨーロッパが成長するアメリカへ、欧米が成長する日本へ言っていたような、「コピーしか出来ない人達」というレッテル貼りみたいです。仮に上の断定が経営者に知れ渡っている真実だとすると、世界の企業が中国で作っている合弁企業の経営者は、ノウハウだけ盗まれに、中国に進出しているのでしょうか...。もちろん違います。もっと先の将来を見据えて中国に進出しているのです。これも企業を引っ張る経営者達が上の引用のような断言に惑わされることも無いでしょうが...。

また、中国は、「まともに考えれば、無事に発展を続けられるような要素はほとんどないのです。(P.184)」と断定しているのですが、理由として環境破壊/資源不足など日本の時も欧米から散々に言われた表現を言い回しています。日本に出来たことを、中国に出来ないと断定することがどれほど不可能であるかということに気づきましょう(当然、出来るとも言えませんが)。

全体を読んでみて、もしかしたら著者は冗談を集めて書いているのではないかと疑いました。僕の考え過ぎでしょうか、膨大な断定の数々から著者のこらえ笑いが漏れ聞こえるような気もします。もしかして著者は全力でボケていて、本書はツッコミ待ちだったのかも知れません。もしそうだとしたら、無粋なツッコミ失礼しました。本書を読む時は丸呑みしないように気をつけてください。
大丈夫な日本 (文春新書)
福田 和也 (著)

第1章 さらば右肩上がりの時代
第2章 群雄割拠が磨いた国家経営のノウハウ
第3章 江戸システムの先進性
第4章 世界の覇者アメリカが堕ちるとき
第5章 中国との距離感を歴史に学ぶ
第6章 わが国の針路

人口減少、財政赤字、中国台頭、階層化-。どれも、怖るるに足りず。日本という国家が再建し発展していくためのグランドデザインを、教育、経済、外交、エネルギー、倫理などの面から語り尽くす。これで日本の未来も安心だ!

9 comments:

kuku さんのコメント...

うーん。自分は「米中対立は生命線」説を支持します。確かに戦争になれば被害甚大ですが、もっと日常的な、チクチクしたやりとりの中では米中対立構造で日本を高く売る方が利益だと思います。

それに、米も中もそれぞれ自国がはじかれないような構造を維持することで(非財産的なものを含めて)利益を確保しようと動いている訳で、日本だけが高潔にもゲームから降りるのは不利益きわまりないと思います。

尤も、降りたポーズをとるのはそれなりに効果的かも知れませんが。

Madeleine Sophie さんのコメント...

kukuさん、なるほど、ご指摘ありがとうございます。自国の利益は他国の不利益ですからね。以前は僕もアメリカ追従が日本の利益だと考えていたので、米中対立から日本の利益を模索する考え方は良く分かります。

しかし、現在、貿易総額は日中が日米を上回っています。日本は中国との関係から利益を上げ始めています。つまりこれからの日本の発展は日米友好に加えて、日中友好を基盤として築かれるという展望があります。

ここで、米中対立をあおるとどうなるでしょうか?コウモリの童話を引くまでもなく、どちらにも友好的な顔を作ることは出来ません。つまり、アメリカだけを選択する必要があります。この状態でアメリカ側に日中友好の疑念が生じれば、日本は米中の対立のなかで宙ぶらりんとなり、どちらからも疎まれます。第二次世界大戦後は表面化していませんが、日米は太平洋覇権を争う潜在的な勢力ですので、アメリカ側に疑念が生じることはあり得ます。

逆に米中友好がなれば、どうなるでしょうか?日本は日米、日中の関係から利益を受けられる幸運な場所に位置しています。日本は輸出、輸入、生産といった活動から現在の発展を成し遂げたと考えるので、この流れを止めかねない潮流は作りたくないと言うのが米中友好を望む理由です。日本列島の頭越しの米中友好が悔しいという感情論を排して、日本の発展を考えたいものです。

======
コウモリ - wikipedia
コウモリは分類では哺乳類であるが、一見鳥のように見える。この外見を参考にしたイソップ童話がある。動物と鳥が争う中、コウモリはどっちにもいい顔をし、結果どちらからも嫌われてしまうという有名な童話であり、現在でもどっちつかず、八方美人的な人や行動を比喩する表現として「コウモリ」を使用することがある。
======

白 さんのコメント...

この問題に詳しい訳ではないのですが、最近読んだ本で「本当にヤバイ!中国経済 -バブル崩壊の先に潜む双頭の蛇-」と言うのがありまして……

それを読む限り、マクロな要素から中国経済がこの先、今の調子を維持しつつ延々と成長するのは難しいのだと――まあ納得するだけの説得力のある本でした。

世界中が資本主義経済で結ばれた今、第二次大戦のような大戦争が特定国のみに利益を齎すとは思えませんし、なにより100年に一度の金融危機の真っ最中です。

米国、中国に限らず諸外国との友好は望みますが、それは双方の国益に適う事が前提ですが……

麻生総理の「自由と繁栄の弧」戦略に期待したい所です。

Madeleine Sophie さんのコメント...

白さん、コメントありがとうございます。「本当にヤバイ!中国経済 -バブル崩壊の先に潜む双頭の蛇-」は読んだことはないのですが、中国の経済の先行きへの疑問は当然だと思います。

中国人が中国共産党へ対する3タイプの考え方」に書いた経済成長への期待から共産党を容認する大部分の中国人が、経済の後退局面でも共産党を容認するかどうかは、未知数ですよね。共産党への不満が爆発して政府が転覆し、大混乱を起こす可能性もあると考えています。

問題は、この大混乱のさなかに、日本は中国の脅威が去ったと喜ぶことが出来るかどうかですよね。中国に建設した工場や、その操業のノウハウまで入れた、すでに中国の投下された資産の回収が困難になっては日本も共に困ります。どちらにせよ、中国の転落は自爆によるもので、日本がわざわざ中国とアメリカとの仲違いをけしかける必要がないと言うのが、福田和也氏への反論の主旨でした。

最後に、戦争の可能性についてですが、対立の方法は太平洋戦争当時とは違って実際の殺し合いになる可能性は低いく、経済戦争などに取って代わられるでしょう。日米経済摩擦のように、アメリカとの関係が悪化し、欧米メディアが「製品は不当に安く売っている、日本は卑怯だ」などと書かれれば、日本はかなり困難な立場に立たされます。風評による株価の暴落などは物質に被害を与えなくても、日本の中で首をくくる人が大量に発生すれば、実際に人は死んでいきます。国と国との関係は60年前を境にして全てが変化したと考えるのは楽観的すぎる気もします。

「自由と繁栄の弧」戦略はとりあえず期待しましょう。民主主義と資本主義の国で弧を作るとなると、中国は見事に取り囲まれますね。米ソ冷戦の封じ込め戦略に近いかも知れませんね。個人的には、もう少し中国に接近してもいいかも知れないと考えますが、現在大きな問題になっていないので、このままでもいいかも知れません。

花園 祐 さんのコメント...

 中国と聞いては黙っていられませんね(^^)

 私はここで書評されている本を読んでるわけじゃないですが、作者の福田和也氏について彼の文章はいつも読んでも言い回しばかり多くてあまり内容を面白いと思うことがありません。自分以外に似たようなことを思う人がいてちょっと安心です。

 中国経済の先行きについてですが、私もあまり明るいものではないと考えています。何でも去年の中国のGDPのうち三分の一くらい(ちょっとあいまいですが)は実体のない株式配当金で、事実上バブル状態に入っているという指摘があります。日本もアメリカもそうして一回は駄目になっているので、近いうちに中国も苦汁をなめることになるでしょう。

 しかしそれで苦しむのは中国だけでなく、コメント欄でSophieさんが書いているように既に中国が最大の貿易相手国となっている日本も影響を受けることは間違いないでしょう。私としては既に運命共同体となっているのだから、その苦しい時期をともにどうやって乗り越えるかを日中で考えることが重要だと思います。

白 さんのコメント...

バブルと言うか、既にはじけまくって株価、不動産が下落しまくりですね。

まさか万博までは持つだろうと思ってたんですが五輪前から弾けるとは予想外でした。

まあ……、今の金融危機を知ればもっと前からバブルが崩壊しててもなんら不思議は無かったのですが、未来は見通せないものです。

世界的に需要が落ち込み、特に米のGMがクライスラーと合併したり、トヨタの営業利益が1兆から180億に減ったのは衝撃的でした。

>中国の投下された資産の回収が困難になっては日本も共に困ります
とありますが、正直言えば中国進出の最大のメリットであった安い人件費が高騰し、法律でレイオフすら許されない状況です、また盛んに強調されていた13億の人民の需要もバブルと共に夢になりました。

少なくとも当初予想より遥かに少なく見積もらざる得ないでしょう。

正直、業種によっては損切りしてでも撤退、もしくは他の新興国への移転を考える必要もあるかと思います。

Madeleine Sophie さんのコメント...

花園さん、白さん、コメントありがとうございます。花園さんの中国との協調路線、白さんの中国進出からの撤退という視点どちらも興味深いです。僕の意見としては、中国との協調路線に近いので、先に白さんのコメントに返信させていただきます。
----
白さんへ、

グローバルな価格競争力を獲得するために海外に進出せざる終えない業種では、最近の傾向として中国が選ばれていますよね。中国はリスクが高すぎるとの意見も一理あると思いますが、ブラジル、ロシア、インド、中国のBRICsと、ベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチンのVISTAを含めて、比べた際、やはり中国が一番適当だった、また現在もそうであると考えています。ある程度の水準の労働者を大規模に動員できる国というので、中国が選ばれたのだと思います。バブルの期待を当て込んで進出したような企業は危ないかも知れませんね。BRICsについては、本ブログで書評しています→「フランスの日々: [書評] BRICs 新興する大国と日本

とはいえ、未来は不確定要素がたくさんありますからね。現時点で最速で損切りして中国から撤退した企業が、将来その聡明さから利益を得ることはあり得ることだとは思います。特に、1世代ごとに人口が半分になっていく一人っ子政策による影響は、今後50年といったスパンで急激に起こってくると考えられます。中国からの撤退は、当初予想に固執することなく、潮時を見極める必要がありますね。個人的には、代替の進出先などを総合して、撤退はまだ早い気がしています。

----
花園さんへ、
読後3ヶ月以上たっているので、文章から受ける印象は忘れてしまいましたが、福田氏はやはり作家だけあって文章は上手いのかも知れませんね。僕はこの本しか読んでませんが内容はひどいものでした。

中国の成り行きについては、楽観論と悲観論のどちらもありますが、一度も後退を経験しない国はないので、中国もいずれは後退局面に入るに違いありませんよね(もう入っているという見方も出来るかも知れませんが)。そうしたときに、すでに運命共同体となった中国を支援することが、間接的には日本の企業やそこで働く日本人を支援していることになるという視点を忘れない方が良さそうです。また、「フランスの日々: 日中友好の重要性」で述べたように、日中対立は日本と中国以外の国々を利するだけだということにも気を配っていきたいです。

利彦 さんのコメント...

そもそも日本が米中関係を左右できること自体が一種の幻想ですね。日本はいまだに世界的、地域的影響力のある国だと勘違いしています。米中関係を妨害するよりも北朝鮮から侵略されたときにいかに自衛すべきかと考えた方がよいのでは。

利彦 さんのコメント...

残念ながら、中国の経済はいまだに崩壊していない。困ったなあ。日本経済の再生は隣国の経済崩壊に当てにすることが日本をだめにならせる一因です。日本人は他国と共栄共生という観念は歴史的にはないので(なにしろ島国のせいで)当世グローバルの時代になっても、隣の火事を暗黙に期待し、火事があるといいなのような心境とビジョンしかありません。これでは日本は強くなれないのだ。東アジアのリーダーになれないのだ。

コメントを投稿