2008年8月4日

[書評] 「エコノミック・アニマル」は褒め言葉だった

「エコノミック・アニマル」は褒め言葉だった―誤解と誤訳の近現代史 (新潮新書)
外国語を自国の言葉に翻訳する時にニュアンスが変わってしまうことがよくあります。この本は、歴史上有名な言葉で、翻訳の時にニュアンスが変わってしまった言葉を取り上げています。マッカーサーの「日本人は十二歳の少年」という発言や、「エコノミック・アニマル」「ウサギ小屋」というよく使われる言葉もそれに当たるそうで、興味深いです。

日米開戦前夜に事前に漏れていた解読された暗号の誤訳などは、米国指導者の決定にも影響を与えた可能性があるなど、重要な局面にも誤訳が存在します。むしろ、母国語以外の環境に身を置くと誤訳や勘違い、ニュアンスの不理解などが日常的におこっていると考えられます。

日本の貧弱な住居を表す「ウサギ小屋」はフランス語→英語→日本語と訳されて意味が変化してしまった例でした。まあ、どちらにしろ褒め言葉ではないのですが、フランス語のニュアンスはパリにもたくさんあるような集合住宅のことみたいです。
cage à lapins ・・・画一的な狭いアパルトマンの多くからなる建物
「ウサギ小屋」は何も日本人のために作った言葉ではなかったのである。(P. 58)
もう一つもフランス語関連を取り上げます。本ブログでも何度か取り上げた「古いヨーロッパ」発言に関するものです(→正論を主張する国「イラク戦争に反対したフランス」国連安全保障理事会:ヴィルパン外相の演説)。vieilleは古くさいを意味して、ancienは古く格式があるを意味します。
つまりフランス人にとって米国人にvieille Europeと呼ばれることは「古くさいヨーロッパ」と言われているようで怒りを感ずるが、ancienne Europeと呼ばれるのは「古くて格式のあるヨーロッパ」と言われているように捉えられ、うれしく感じるということらしい。(P. 164)
著者自身の留学体験や、夏目漱石の悲劇的な留学体験、魯迅の素晴らしかった留学体験などを比較し、留学したその国を好きになるか否かはどうやって決まるかということについて、最後の結論はこう結ばれていました。
経済面で困窮していないこと、住む家が悪くないこと、その国の人間、しかも知的な階層の人々との交流が少しでも行われること、少しで良いからその国の人間から親切にされたことがあること(そもそも知的階層の人々は心に余裕があり、ユーモアにあふれ、外国人にも親切であるというのが私の印象である)、その国の言葉を使って当初よりある程度の意思疎通が出来ること、と思われる。そんな瑣末なことの集積で、実はその人の相手の国に対する見方は確実に決まってくると思うのである。(P.124)
同意します。これから留学する方は心に留めておくと良いです。
「エコノミック・アニマル」は褒め言葉だった―誤解と誤訳の近現代史 (新潮新書)
多賀 敏行 (著)
  • 第1章 「日本人は十二歳」の真意—この一言で、マッカーサー元帥は日本人に嫌われてしまったのだが…。
  • 第2章 「エコノミック・アニマル」「ウサギ小屋」は悪口か—二つの言葉には、日本への意外な高評価が隠されていた。
  • 第3章 アーネスト・サトウと山下将軍の無念—外交の場では小さな勘違いが致命傷になる。そこに悪意はなくても…。
  • 第4章 暗号電報誤読の悲劇 日米開戦前夜—悪意に溢れた米国側の「誤訳」が、日米開戦のきっかけだった!
  • 第5章 漱石の鬱屈、魯迅の感動—イギリスで屈辱を味わった文豪と日本の人情に触れた文豪。
  • 第6章 ダイアナ妃とブッシュ・シニアの文法—世界を揺るがせたプリンセスの三人称。大統領が見せた言語学の知識。
  • 第7章 存在しない「グローバル・スタンダード」という言葉—政財界がお題目にした「基準」は、日本でしか通用しない言葉だった!
  • 第8章 ブッシュ・ジュニアの国連演説—単数か複数か、それが大問題だった。イラク戦争を巡る駆け引き。
  • 第9章 騒動の中心はたったひとつの言葉—「うすのろ」「強情者」呼ばわりで大統領も首相も激怒。
マッカーサーの「日本人は十二歳の少年」という発言や、「エコノミック・アニマル」「ウサギ小屋」といった言葉は、日本人をネガティブに評する際に使われ る決まり文句である。しかし、実はこれらの言葉に批判的な意味はなかった。日米開戦のきっかけになった誤訳、ダイアナ妃の招いた誤解、世界には通じない 「グローバル・スタンダード」の意味等、近現代史のさまざまな場面での誤解、誤訳を紹介する。

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