2008年7月25日

[書評] カルロス・ゴーン経営を語る

カルロス・ゴーン経営を語る (日経ビジネス人文庫)
[書評] カルロス・ゴーンは日産をいかにして変えたか」の後にこの本を読んでみました。結論から言うと本書の方が数段面白いです。ゴーン氏の経歴、仕事ぶり、転職の顛末などが書かれていました。本書は、カルロス・ゴーン氏の祖父の代から扱うなど背景まで網羅されている点が素晴らしいです。ゴーン氏はフランス人ですが、標準的なフランス人とはかなり違うということが良く分かります。レバノン人の両親からブラジルで生まれていて、アラビア語、フランス語、英語、スペイン語、ポルトガル語を操るそうです。

本書では、経営に関すること、リーダーに関すること、仕事ぶりに関することなど、ゴーン氏の言葉でいろいろ書かれていて興味深いです。全てを紹介できないので、僕が一番興味を持ったところを紹介します。それは、ゴーン氏の転職に関する部分です。僕自身の博士課程卒業後の進路への参考にしたい部分などもあり、一番興味を持ちました。ゴーン氏は日本とは違うシステムのグランゼコールを卒業しました(→参照:技術系のグランゼコール)。日本のシステムと比較するのは無理がありますが、大学を卒業した後、修士を卒業したあとに就職したというのに近いです。ミシュランに就職してから、ルノー、日産と渡り歩いた転職の経緯が面白いです。

まず、ミシュランを選んだ理由。フランスのエリート教育を受けた後、フランスの企業に勤めるのは一般的なことですが、後にブラジル・ミシュランの社長になったことから、この選択に生まれ故郷のブラジルと関係があるのかなとは感じていましたが、その通りでした。
ミシュランの誘いには、あらゆる利点が備わっていました。世界を相手に仕事をしているフランスの大企業に入って、しかも、家族のもとへ、ブラジルに戻ることが出来るのです。(P.78)
次に18年勤めたミシュランを辞めて、ルノーに転職します。その時の理由は困難な状況に陥っていたルノーで再建を手伝うことが出来るかもしれないという挑戦心と、将来性でした。
ルノーに決めたもう一つの理由は、チャレンジです。困難に立ち向かっている会社があって、自分がそこで何か手伝いができるかもしれない、状況を変えられるかもしれないのですから、やりがいがあります。健全な企業よりも、窮地に陥っている企業に入る方がチャンスは大きいのです。もしそこで再建に貢献できれば、実力が認められるからです。(P. 181)
ルノーには、いわば制限枠がありませんでした。わたしの将来はここまでという天井はなかったのです。しかも、シュヴァイツァー自身の口から、私がそのあとを継ぐことになるかも知れないとさえいわれたのです。(P. 181)
長く親しんだ会社を辞める時には、辛い別れもあると思いますがその辺りのこともよく書かれています。このミシュランからルノーに転職するのは、ゴーン氏自身にとって、さらにはミシュラン社にとっても良いことだと言っているのは、新鮮でした。同族経営のミシュランでは社長になれないゴーン氏の将来と、自動車会社のルノーと深い関係を持つミシュランとの関係性においてゴーン氏がルノー社の上層部にいることはミシュラン社にとっても利益のあることを述べています。

そして、日産に来た経緯。日本とフランスで文化の違う日産とルノーをまとめるには、最適な人材が日産に送られたと感じていましたが、ゴーン氏もそのように感じていたようです。海外で暮らしたことがあり、事業再建の経験もあって、異文化にもとけ込めると証明済みの人間は、そうはいません。
そして、『もうわかっていると思うが、日本に送る人間はひとりしか考えられない。それは君だ』と言われたのです。驚いたかと訊かれれば、答えはノーです。私の職歴を考えれば、むしろ当然のことだと思いました。...(略)...そして、客観的に考えて、もし私がルイ・シュヴァイツァーなら、カルロス・ゴーンを指名するだろうと思っていたのです。この任務の場合、海外で暮らしたことがあり、事業再建の経験もあって、異文化にもとけ込めると証明済みの人間が適任です。(P. 212)
ゴーン氏の経歴を見ると日産を再建するために歩んで来たのかと思うほど、当時の日産にジャストフィットな人材だったと思います。しかし、最初の就職先を選んだのは、生まれ故郷で働きたいという動機であり、もちろん日産の危機を救うことなど思いもしなかったでしょう。その時々で下した判断が、振り返ってみると総合的にも最適な判断になるという例で、見習いたいと思いました。オススメの書です。
カルロス・ゴーン経営を語る (日経ビジネス人文庫)(文庫)
Philippe Ri`es (原著), Carlos Ghosn (原著), カルロス ゴーン (翻訳), 高野 優 (翻訳), フィリップ リエス (翻訳)
  1. 旅立ち
  2. パリ
  3. ミシュラン
  4. リオデジャネイロ
  5. 北米での挑戦
  6. さらばミシュラン
  7. ルノー
  8. アジアへ
  9. 日本で
  10. ルノーの人々
  11. 聴診、そして診断へ
  12. 仕事について
  13. ショック療法
  14. コミュニケーションの必要性
  15. 弱点の強化—デザイン・財務・販売
  16. 新しい企業文化
  17. 提携を活力あるものにするために
  18. 経営者とは
  19. 明日の自動車産業
  20. 中国市場
  21. 希望のメッセージ
「お互いに自分のアイデンティティを守り、相手のアイデンティティを尊重する…。それがあるからこそ、提携は前進するのです」—「地球市民」カルロス・ゴーンが形成される軌跡をフランス人記者がインタビュー形式で描きだす。ゴーン社長の経営哲学と人間的魅力をあますところなく伝え、ビジネス書を超えた感動を巻き起こしたベストセラーの文庫化。

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