
wikipediaによると百年戦争には「現在のフランスとイギリスの国境線を決定した戦争であり、両国の国家体系と国民の帰属意識は、この戦争を通じて形成されたといっても過言ではない。」とあります。フランスとイギリスの成り立ちを知るには必要不可欠な歴史です。百年戦争の概要は本書ではすごく分かりやすく、こうなっています。
十四世紀に戦端が開かれると、序盤は圧倒的なイギリスの優勢ですすんだ。クレシーの戦い(一三四六年)、ポワティエの戦い(一三五六年)と祖国を勝利に導き、この快進撃の立役者となった軍事的カリスマが黒太子エドワードである。戦争が十五世紀に突入するにつれ、フランスは国土の半ばを占領され、いよいよ国家存亡の危機に見舞われる。オルレアンの攻防(一四二八年〜一四二九年)に敗退すれば、もう大局が決するという場面に突如として現れるのが、救世主ジャンヌ・ダルクである。おかげで憎きイギリスを放逐し、フランスは祖国防衛の輝かしい勝利を収める。要するに、最初は黒太子エドワードで、イギリスが勝つ。最後はジャンヌ・ダルクで、フランスが勝つ。(P.12)実は本書を読むのは二回目なのです。1年ほど前に買って、最初は興味が持てず途中で他の本を読み出して、そのままになっていました。本の記述はすごく簡潔に分かりやすいのですが、登場人物や土地の名前が多くて混乱してしまいます。二回目の今回は、英仏百年戦争への興味が知識も少し増していたため、すんなり読めました。
まず、一番最初に知らなければならないことは、なんと英仏百年戦争はイギリスとフランスの戦いではなかったことです。なぜならその頃には、イギリスやフランスといった国家の概念が無く、豪族の治める土地という概念が多くを占めていたからです。よって、百年戦争は、フランス国王と、大陸の一部とイギリス島を治める豪族(イギリス王)との戦いだったのです。フランス国王に奪われた大陸の土地を取り返すために、イギリス王がフランスにやって来て戦いを始めたということです。当然両者ともフランス語を話す領主です。そして、百年にわたり間欠的に行われた戦争によってイギリスとフランスという国家という概念が生まれてきました。
いいかえれば、英語しか話さないヘンリー五世は、イングランド人として即位した、最初のイングランド王だった。「フランス人」だった祖先の権利を持ち出してはみるものの、すでにして野心を美化する便宜に過ぎない。その戦争は祖父伝来の領土を奪還する戦争ではなく、フランスという「外国」を征服する侵略戦争に変質していたのである。(P.141)イギリスは、このとき出来たといえそうですが、フランスもまたこの戦争によって形づくられました。
いうなれば、フランスという既存の国が「英仏百年戦争」に勝利したのではなく、「英仏百年戦争」がフランスという新たな国を誕生させたのである。(P.179)最後に、フランスの国民的ヒロインであるジャンヌ・ダルクの興味深い小話を一つ。
ジャンヌ・ダルクは瞬く間に忘れ去られた。実際のところ、女救世主の物語は近代に至るまで、生まれ故郷のドムレミ村と開放されたオルレアンだけで語り継がれる、地域限定の昔話に過ぎなかったのだ。これを発掘して、大々的に広報したのが、かのナポレオン・ボナパルトだった。(P.159)
英仏百年戦争 (集英社新書)
佐藤 賢一 (著)
シェークスピア症候群
前史
本史
- それはノルマン朝の成立か
- それはプランタジネット朝の成立か
- 第一次百年戦争
後史
- エドワード三世
- プランタジネットの逆襲
- 王家存亡の危機
- シャルル五世
- 幕間の悲喜劇
- 英仏二重王国の夢
- 救世主
- 最終決戦
それは、英仏間の戦争でも、百年の戦争でもなかった。イングランド王、フランス王と、頭に載せる王冠の色や形は違えども、戦う二大勢力ともに「フランス 人」だった。また、この時期の戦争は、むしろそれ以前の抗争の延長線上に位置づけられる。それがなぜ、後世「英仏百年戦争」と命名され、黒太子エドワード やジャンヌ・ダルクといった国民的英雄が創出されるにいたったのか。直木賞作家にして西洋歴史小説の第一人者の筆は、一三三七年から一四五三年にかけての 錯綜する出来事をやさしく解きほぐし、より深いヨーロッパ理解へと読者をいざなってくれる。
- フランス王の天下統一
- 薔薇戦争
- 結、かくて英仏百年戦争になる
2 comments:
いつもながら興味深い内容をありがとうございます。
「百年戦争」って世界史の時間にちょっとだけ出て来た記憶はありますが、「フランス人」の戦いだったなんて、初めて知りました。
ありがとうございます。
凸っとしておきます!
いつもコメントありがとうございます。僕もこの本を読むまで同じぐらいの理解度だったですけどね。歴史も興味を持つといろいろ読んでみたくなるので、おもしろいですよ。
僕も歴史に強い訳ではないのですが、ちょっとずつ書いていければと思います。
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