
いまから10年も前に書かれた本なのに、未だに普通の未婚の男性が見ても進んでいると感じる本でした。夫婦の3割が離婚するフランスでは、前のパートナーの子供がいる家庭が当たり前になって来ています。それに対応して、人々の価値観が変わって来ています。例えば、子供を理由にパートナーを縛るのが悪だと言う認識が、広がっています。本書では、以下の部分です。
愛し合っていないふたりが一緒に暮らし続けるのはむしろモラルに反する、という認識だ。(P.28)「子供のために、夫婦関係を続ける」というのは、どうやら美徳や常識ではなくなって来ています。同じ文脈がフランス大学院留学記 ”Ma vie est ma vie”というブログで触れられていました。
フランス大学院留学記 ”Ma vie est ma vie”この文章を読んだ時も、いままで唯一絶対に重要なものだった家族というものは、どんどん変わっていっているんだと衝撃を受けたことを覚えています。おそらく僕とそれほど年齢の変わらない女性が、家族と言う幻想が崩れ始めた、もしくは崩れ去ったと認識しているのです。
子供がほしければ自分で育てれば良い、好きな人がいれば一緒にいれば良い、だけどずっと一緒にいたいと思い続けて相手を縛るのはエゴだ、と言われてしまい、私、またいつの間にか家族幻想のスパイラルにはまっているのかしら、と思った。
いままで一般的だった「家族」以外の家族の形態が、フランスでは多種多様に現れていて、いま現在も新しい価値観を獲得するために人々は日々考え続けています。日本人はフランス人達というと遠い世界に住む人達だと考えがちですが、彼らも同じ人間です。彼らが死にものぐるいで考えて達した結論は、よく考えれば日本人達も達する結論と大差ないはずです。そして、日本でも同じような傾向に変わり始めていると感じます。本書でも、価値観の変化を肯定的に捉えています。
親の世代の価値観に満足せず、新しい価値観を創出しようとする、そうした生き方は、個人にとってむしろ満足感の深い生き方だとはいえないでしょうか。(P.96)いろいな新しい形態の家族を紹介し、論じた後の本書の結論は、以下の通りです。
そう、すでに逆行は不可能なのである。社会は変わった、家族は神話であることをやめた。(P.203)たしかに、いままで一般的だった家族と言うのはどこにも存在しない幻想になりつつあるということは分かりました。それでも僕は、いままでの両親と子供という家族のあり方は古くさい神話や幻想で、不必要なものだったという考え方は出来ません。おそらく、人々の意識と価値観が移り変わっても最後まで考えを変えられない古くさい人間なのでしょう。どうしても今までの家族を一番の幸福として、他の形態の家族も必要かもしれないという以上に進めません。いずれにせよ、世界が変わって来ている以上、新しい家族の価値観について知ることは有益です。
フランス家族事情―男と女と子どもの風景 (岩波新書)有名なブログ「404 Blog Not Found」では、同じ著者の新しい書籍が紹介されていました→「s/フランス//g #して読め - 書評 - フランス父親事情」、「そんな苦労が出来ないバカヤロウな男ですごめんなさい」。プログラミング言語Perlなどを勉強したことがある人は、タイトルの正規表現が何を意味しているかは分かると思いますが、簡単に説明しておくと、「フランス」という語句を「」で置換しなさいという意味になります。つまり、この本はフランスという言葉を除いて読めという意味です。フランスというと遠い国と思いがちですが、彼らの達した結論は日本人にも非常に参考になるということだと思います。フランスでは入手困難だと思いますが、いつか手に入れて読みたいです。
浅野 素女 (著)
第1章 非婚の時代
第2章 誰だってシングル
第3章 シングル・マザーは泣かない
第4章 パパ、SOS!
第5章 人工生殖の問いかけるもの
第6章 複合家族
男が,女が,自由を手にしたとき,「家族」が揺らぎ始めた.結婚制度を振り切り,恋愛も子づくりも思いどおりになると信じた男女がはまった,深い罠.非婚 カップル,シングル・マザー,再婚・再再婚家族,人工授精をくり返す女性.試行錯誤する人々の姿を,医師など専門家の分析を織り込んで描く.海の向こう に,きっとあなたがいる.
フランス父親事情
浅野 素女 (著)
1章 パパになった
- ジャン - 出産に立ち会う / 父親手帳 - 手帳交付という儀式 / マルク - 父との「失われた時」 / 父親学級 / 出産とは、自分の母親を殺すこと / 父親が産まれようとする苦しみ
- 2章 父性をめぐる現代史
- 父親の不確実性 / フランスでDNA鑑定を制限する理由 / 認知というアクション / 事実婚で子を産む / 五月革命と「父親殺し」 / 八〇年代 - 父親の敗退 / めんどりパパの出現 / 父親の復権 / 父親の出産休暇
- 3章 あんなパパ こんなパパ
- 父を見て父親になる / 父を探して / 養子を育てる / 人工生殖とホモセクシャリティー / 複合家族 - パパ?それとも……
- 4章 神と精神分析
- はじめに言葉ありき、父ありき / 現代的なパパ、ヨセフ / エディプス・コンプレックスを脱して / 父系社会と母系社会
- 5章 父性をめぐる西欧史
- ローマ時代からキリスト教の時代へ / 愛情深い中世の父親たち / 近代 - 婚姻という砦 / ルネッサンスの教育論 / 革命前夜 / 革命 - 幸福と子ども / ナポレオン法典の揺り返し / 父親の不在、そして疎外
- 6章 男ってなんだ?
- 広告の中の男と女 / 女が男に求めるもの / メトロセクシャル / 異なるものへの畏怖 / 母の姓、父の姓
- 7章 「父親学」の現在
- 母の支配を脱して / 時間をつかさどる人 / 父の胸 / 親と親を足し算して…… / 父からすべての人へ
- おわりに
2 comments:
初めてコメントいたします。
上記の2冊、読みましたが
シングルマザーの私の感想は、ショックというよりは
「いいの?許されるの?」でした。
男女のことはともかく
子供第一(と思うべき)母性神話の強く残る日本では
話しても到底受け入れられないと感じています。
どちらが良い等の答えはないかもしれませんが
「結婚」などの契約にあぐらをかかないフランスにタフさを感じました。
そうですね。日本での意識はそこまで行ってませんよね。僕もちょっと別世界な感じはしました。
でも、離婚の増加や人工生殖の現実は、変えられないので日本でも人々の意識は移り変わっていると感じます。どれぐらいの速度で動いているかは分かりませんが、この本で示されている方角に向かっていることは間違いないのではないでしょうか。
確かに、男女の関係を全て作り替えるのがいいのか、今までの方法を修正しながらやっていくのがいいのかは、意見が分かれるところですよね。万人に共通の答えはないのかも知れませんね。
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