2008年5月29日

[書評] 大欧州の時代—ブリュッセルからの報告

大欧州の時代―ブリュッセルからの報告 (岩波新書)
フランスに来て思うのは、町の至る所に三色旗が掲げられていることです。日本で日章旗を見る機会の10倍ぐらいはあると感じます。フランスでは人種や宗教が国民としてのアイデンティティでなくなった現在、言語やイベントなどを通した「共通の体験」が国民の団結を支えていると推測します。共通の体験を演出するフランス三色旗の役割は、非常に高いのです。三色旗よりはかなり頻度が低いですが、行政機関などの公共機関で見かけるのが、欧州連合の旗(青に12の★)です。さらに研究所の教授がヨーロッパ委員会から研究資金を受けている発表をする場合には、必ずスライドの背景にこの旗が翻っています。欧州旗もまた、人々が欧州連合に所属している意識を持つのに役立っています。

このエントリーでは、欧州の首都ブリュッセル勤務の著者によって2006年に欧州連合について書かれた本を紹介します。毎年、いろいろなニュースが飛び込む激動の欧州連合において、いまから2年前の情報ということで少し古い面もありました。例えば、加盟国は2007年に25ヶ国から27ヶ国に増えました。しかし、本書は、基礎を押さえることには有効です。

まず、異なる文化、歴史、言語を持つ国々が一つになろうとしている時、人々は期待と不安を感じます。日本が東アジアの国と統合されていく様子を考えれば、容易に想像がつきます。本書では、以下のように書かれています。
豊かな生活、そして国や暮らしの安全を確かにするために欧州統合は進めたい。しかしEUが加盟各国の上に立って、号令を発する欧州中央権力にはなってほしくない。各国、地方の独自の文化やアイデンティティは守り続けたい。(P.14)
その後、EUの政策や、イラク戦争でアメリカに反対したフランス・ドイツとアメリカに追従した国でEUがまっぷたつに割れた経緯などが描写されます。統合した欧州の新たなステップである欧州憲法は、フランスとオランダでの国民投票による否決により、発効が断念されました。欧州憲法が発効されるは、全加盟国の批准が必要なのです。「欧州憲法が無に帰してしまったとの見方は少ない。しかし憲法再生への道筋は不透明だ。(P170)」とあるように、長い目で見れば将来日の目を見る可能性もあります。フランスでなぜ欧州憲法が国民投票で否決されてしまったか、という説明に「ポーランドの配管工」という説明がありました。
国民投票前、「ポーランドの配管工」をめぐる議論がメディアの話題を集めいていた。ポーランドのEU加盟によって、水道の配管工の仕事も、いずれ低賃金で働くポーランドの若者に奪われてしまうだろうというのだ。
この本では言及がありませんでしたが、欧州憲法は高学歴のエリートが賛成にまわり、低学歴の労働者が反対に回ったという傾向があったそうです。エリートは成長を求めるために統一された市場を求め、労働者は低賃金の労働者との競争にさらされる統一市場を怖れたということです。

wikipediaより
ともあれ、ポーランド人は「ポーランドの配管工」などというイメージがフランスのメディアで取り上げられたことに怒らなかったのでしょうか?調べてみると、ポーランドの観光局がこの屈辱を逆手に取って、カッコいい配管工を起用したポスターを用いて宣伝をうったそうです。この広告は、BBCニュースMSNBCニュースでも紹介されていて、画像はwikipediaにもアップロードされていました。いかにもイギリス人とアメリカ人が好きそうなユーモアです。ポラーンド人にとってはフランスメディアの煽動的なイメージ戦略は気持ちのいいものではなかったでしょうが、ポーランド人のユーモアセンスにEUの人々は和んだのではないでしょうか。
大欧州の時代―ブリュッセルからの報告 (岩波新書)
脇阪 紀行 (著)

第1章 ブリュッセルの素顔
第2章 大欧州支える論理と構造
第3章 新政策はブリュッセルに発す
第4章 欧州外交の新展開
第5章 欧州憲法への挑戦
第6章 岐路に立つ大欧州
エピローグ 二つの共同体—ヨーロッパと東アジア

加盟国の東方拡大や、欧州憲法の頓挫を経て、EUはこれからどこへ向かうのか。そもそも巨大組織の仕組みはどうなっているのか。諸政策をめぐる熾烈な駆け 引き、欧州外交の試みなどを多くの事例を通して描き出す。山積する問題を抱えつつも新しい可能性を模索し続ける、壮大な実験の現場からのレポート。

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