2008年5月19日

[書評] 右であれ左であれ、わが祖国日本

右であれ左であれ、わが祖国日本 (PHP新書 440)
本の帯に『「右翼」も「左翼」も語らなかった独創的国家論 - イデオロギーを超えた地政学的発想とは -』と書いてあり、タイトルに「わが祖国日本」なんて書いてあると、すごい右っぽい論が展開されそうです。しかし実際は、著者が意図したように、右派左派の対立を注意深く避けながら、過去の日本の行動の解析と、今後の日本についての予測/提言がなされています。タイトルの「わが祖国日本」は、ジョージ・オーウェルの"My Country Right or Left"から取ったもので、「わたしの国」という意味以上のものは無く、イデオロギーそのものを扱わないように書かれています。本書には以下のように書かれており、それが大体において成功しているように思える、珍しい読み物でした。
しかし、いま、「左翼」「右翼」と書きましたが、そんなものはなくてもよいものとしてカッコに入れました。思想的な流れとしては、左対右、とか、保守対革新といったものはいまもこれからもあるでしょう。しかし、それが単なるレッテル貼りであったり、それが議論を硬直させ、ストップさせてしまうのであれば使わない方がいいでしょう。そうしたレッテルなしに、「国家は変えられるのだ」、という信念で、議論を開始しましょう。(P.38)

日本の歴史過去500年の行動を「国際日本」、「大日本」、「小日本」の3つのモデルに分類し、単純化がなされています。多少乱暴な気がしますが、歴史学者ではなく、国家についての理解に膨大な時間を割けない一般の日本人が日本を理解するためには、十分なモデルだと思います。簡単に紹介すると、下のようになります。
  • 国際日本:戦前の国際連盟、戦後の国際連合や欧米との協調路線。今後は東アジアとの国際協調も含む。(例:日英同盟、ワシントン海軍軍縮条約
  • 大日本:中国に成り代り東アジアにおいて盟主となる路線。(例:日清戦争、日露戦争、真珠湾攻撃
  • 小日本:江戸時代に漆器、陶磁器、浮世絵、工芸品の文化を極めたように、アニメ、デザイン、ゲームなどの文化を磨きつつ、防衛を維持し列島に引きこもる戦略。(例:江戸時代の鎖国
そして、このモデル化は、日本のみに通用するもので、その他の国には適応できないことは著者自身が説明しています。その後、日本を取り巻く三つの主勢力(中国・ロシア・西洋)との地政学的な関係性を議論します。歴史の例を挙げたりして、平易に書かれていると感じました。その後、本書は、今後の日本の独り立ちは、先に挙げた3つのモデルの「どの一つのモデルも単独では機能しない(P.203)」と説きます。かいつまむと、国際日本は、ヨーロッパとの距離が問題となり、大日本は強大な中国を凌げないため不可能、小日本はアメリカが許さないと結論されます。

最後に著者からの7つの提言がなされます。(1) アメリカとの関係、(2)中国との関係、(3) 韓国、北朝鮮との関係、(4) その他のアジア諸国との関係、(5) ロシア、ヨーロッパとの関係、(6) 台湾との関係、(7) 「わが祖国日本」との関係、となっていて、どれも興味深い指摘です。最後に、心に残った言葉を以下に残しておきます。
私は、この国に、短期的には悲観的な見解を持つこともありますが、中、長期的には、私たちの先人がこの列島に残した、田畑の水利から産業基盤、通信網に至るまでの目に見える装置と、合意の形成法から情愛の持ち方、生活の中の美に至るまでの知恵のシステムと力は、その使い方と工夫を怠らなければ、私たちにこれからも幸福をもたらすに十分と考えています。(P.16)
この国を運営していくのは難しいが、やってやれないことはない。そして、それはやりがいのある仕事と思えます。つまり私は、いまを生きている日本人として、これまでの先人達が為し、残してくれたことを振り返ると、悲観的になるのは傲慢に思えるのです。私は、謙虚になった上で、むしろ、わが祖国について、長期的には楽観しているのです。(P.235)
著者は、自身をリアリストと言うように、荒唐無稽な理想や、過度の悲観論を排して、過去と未来の日本を分析していました。上の文章にあるように、著者は本質的に楽観的なようですが、僕にとって完全に同意できるところでした。
右であれ左であれ、わが祖国日本 (PHP新書 440)
船曳 建夫 (著)

序 なぜ、いま「国家論」なのか
第1章 右であれ左であれ、あなたの日本
第2章 国際日本・大日本・小日本—室町から戦前までの日本の国家モデル
第3章 中国・ロシア・西洋という脅威—三つの主勢力による東アジアの地政学的環境
第4章 戦後日本の夢と現実—敗戦から第一次イラク戦争まで
第5章 右も左も傷ついた「戦後・後」の日本—冷戦終結・バブル崩壊・第一次イラク戦争
第6章 戦争をしない方法、勝つ方法—集団的自衛権・憲法第九条の問題
第7章 「中庸国家」という日本の針路—世界とどう向き合うか

改憲か護憲か、親米か反米か、愛国心は是か非か──。左右イデオロギーの対立軸だけで国家を論じるのは思考停止だ。著者は、日本の過去五百年の歴史をふまえ、二つの独創的な視点で国家を論じようとしている。一つは、日本という国のとりうるかたちは、三つのモデルに集約されるという視点。つまり、信長型の「国際日本」、秀吉型の「大日本」、家康型の「小日本」という三つのモデルで考える国家論を披瀝する。さらに二つ目の視点は、日本は常に、三つの主勢力(中国・ロシア・西洋)との距離のとり方によって国運が左右された、という指摘。そして、この「三つのモデル」と「三つの主勢力」という枠組みから、憲法第九条、集団的自衛権、核武装論、六カ国協議、への対応策を導き出す。著者の専門は文化人類学であるだけに、イデオロギーにとらわれない地政学的発想が新鮮である。まさに、「右翼」も「左翼」も語らなかった独創的な国家論といえる。

4 comments:

M: 木蓮 さんのコメント...

こんにちは、リヨンの木蓮です。
面白そうな本ですね。丁度日本と世界のイメージが掴めそうな本が読みたいと思っていた所でした。「第二章の日本の国家モデル」は興味があります。
ところで、こういう本は買っておられるのでしょうか。なかなかフランスでは自分で読みたいと思った日本の本を手に入れられないので、困っています。

Madeleine Sophie さんのコメント...

イメージを掴みたい欲求がすでにおありなら、満足できると思いますよ。意識的に議論を深めすぎないようにして、網羅性を高めている印象でした。深く知りたい人に取っては入門編かも知れませんが。
本の入手は難しいですよね。この本はBOOKOFF Opéra店で4ユーロで買いました。リヨンには残念ながらなさそうですね。新書は定価の3倍するのでさすがにまだ買えてません。アマゾンとかも、輸送料¥3,400でさらに一冊ごとに¥300だそうです。ちょっと学生には痛いですよね。なにかいい方法があれば良いのですが。。

http://www.amazon.co.jp/gp/help/customer/display.html/ref=hy_f_3?ie=UTF8&nodeId=642982

M: 木蓮 さんのコメント...

ああ、bookoffでしたか。さすがに、パリはそういうところは便利ですね!
前にどうしても必要で本をアマゾンで取り寄せた時には、送料+タックスでトータルがえらく高いなったのを覚えています。Junkuはやはり高いですよね。
Sophieさんのブログは随分参考になるので、これからも楽しみにしています。

Madeleine Sophie さんのコメント...

Bookoffはもう試されてましたか。やっぱり高いですよね。
ありがとうございます〜!こちらこそ、木蓮さんのブログの更新を楽しみにしてます。やはりコメントがあるとモチベーションの維持になります。

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