2008年5月17日

民族別統計禁止のフランスが変わる


Strasbourg, France
サッカーワールドカップのメンバーを見れば分かる通り、フランスは多数の民族が混じり合った社会です。それだけに、利益が特定の民族だけに偏ったり、特定の民族だけが良くも悪くも特別扱いされることを嫌います。例えば、wikipediaによると人気映画アメリも「映画には、現代フランス社会をリアルに描写する上で欠くことのできない黒人やアラブ系の人々がほとんど登場しないことから、偏ったフランス社会の描写だという批判が一部新聞(左派系新聞として有名なリベラシオン誌)に掲載された。」そうです。特にそうは感じないですが、それほど敏感だと言うことでしょう。

確かにフランスのキャスターはアメリカに比べると、民族的に偏っていることも指摘されます。先に書評を書いたアメリカに「NO」と言える国に以下の文章がありました。
スタンガーは、フランスの大手テレビのキャスターがほぼ金髪碧眼系であることを指摘し、これではテレビを見るアラブ系二世の子供達は夢や野心を抱けない、アメリカの黒人の少年ならテレビに映る黒人キャスターを見て自分たちにも可能性があると信じられるのに、と述べる。(P.99)

しかし現在、驚いたことに、フランスでは民族や出身地別の統計が原則的に禁じられています。上記の文章は下のように続きます。
ところが、実は、フランスではエスニシティ別統計がそもそも禁じられている。「何系のフランス人」というのは、共和国原理の中では存在しないと見なされているのだ。フランス人という概念はエスニシティ別や男女や障害のあるなしを統合するものだからだ。(P.99)
民族別統計が存在しないことによって民族別の職業の偏りが割合として認識されることはありません。あくまで感覚的に多い少ないと感じるだけなのです。こちらのサイトにフランスの民族別統計の是非について書かれていました。
それなら数えればよいのであるが、この作業はこれまでフランスでは禁じられていた。comptage éthnique(民族統計)は非常にデリケートな問題で、きちんと数えることによってより具体的に人種差別問題に取り組むことができるという人がいる反面(政治家のサルコジ氏など)、数えることにより差別が激化するリスクがあると反対する人(SOS Racismeなど)もおり、いまだにはっきり決断が下されていない。(2006年09月)
上記の文章は、民族別統計を認めるか認めないかについて、サルコジ大統領が決定する半年以上前に書かれた文章でした。これまで後者の方が優勢でした。前者は差異を認め、積極的に優遇策などで差異を是正しようとします。対して、後者は人々は本質的に平等であるという哲学を守るため、差異を意識させることをしません。しかしサルコジ大統領が誕生したことで、フランスの根幹に関わることがどんどん変わろうとしています。そして今年ジャック・アタリによるフランスを変えるための300の決定(2/3)で以下の提案がなされました。
157. 行政、組合、政党、教育施設において年齢、性別、出身の様々な年間統計を実現する
この項目には追加の説明が無いため、これ以上のことは分かりませんが、民族間の差異をはっきりさせようとしている訳です。フランスでは、アメリカのように極端に人種別に優遇策が提案されたりするとは思いませんが、そのための下準備が行われるかもしれないという状況です。これからのフランスの民族間の関係は注目です。

2 comments:

azianokaze さんのコメント...

ブログへのコメントありがとうございました。
ご指摘の“民族別統計”の件、大変参考になりました。

民族間差別是正のための“逆差別”政策というのは、デリケートな問題ですね。
最近、南アフリカでは中国系住民が“名誉黒人”的な存在として認められたとか、インドではマイノリティーへの認定を求めて暴動が起こるとか・・・。
マレーシアのマレー人優遇政策は揺らいできているようです。

日本で言えば、民族差別ではありませんが、同和問題があり、一部の者による弊害もときに指摘されます。

そうした是正政策のための準備としての統計調査・・・微妙ですね。
日本で、部落関係の調査を行うと言ったら大問題になるでしょう。

一方で、差別是正の有効な取り組みなしに放置していていいのか。
制度的な“逆差別”政策なしに、人々の心の中の垣根を取り払うこと・・・が理想であるのは間違いないにしても、現実的にそのようなことができるのか?
現実がその方向に向かっているのか?

難しいところです。

なお、「フランスの旧植民地の独立に際しての補償」については、何も知りません。

Madeleine Sophie さんのコメント...

人種別に区別してから是正するのか、平等を目指し区別しないのか、たしかに難しい問題ですね。だからこそ、どのように解決していくのか興味深いです。

「フランスの旧植民地の独立に際しての補償」は「1945年の敗戦以後、日本は経済的な奇跡を実現した(Le Japon 固定観念)」で述べたかったのですが、フランス語、英語、日本語でなかなか情報が無かったんですよね。おそらく補償などとは考えないのかも知れませんね。

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