2008年5月16日

[書評] 日本とフランス 二つの民主主義

日本とフランス  二つの民主主義 (光文社新書)
民主主義には自由平等という二つの目標があり、それはどちらかを求めればどちらかを失うという相反する関係にあります。そして、今の日本には自由以外の選択肢しかなく、もう一つの選択肢の平等を目指す代表国としてフランスが紹介されています。本書が書かれた意義は、下の概要に全てが書かれていると感じます。

本書は、たとえフランスの政治に興味のない読者にも薦められます。日本の政治が何がなんだか良く分からないのは、どの立場に立つ政治家も政党も自由のことしか考えていないので、主義主張が似通っているからという原因だったと改めて感じました。つまり日本の民主主義のもう一つの片割れである平等がまったく欠けていたのです。「極端な話、自由主義しか選択肢が無いなら、選挙をする必要さえ無いのだ。(P. 80)」と言うのは、たしかに極端ですが、日本の政治の迷走を端的に表しています。最近、日本でも自由民主党と民主党の二大政党制の時代が到来すると報道されることがありますが、平等の選択肢が現れない限り不可能でしょう。本書では、以下の通りです。
多くの国の政党構成が二大勢力に大別されるのは、偶然のことではなく、必然的な結果なのだ。ヨーロッパの市民は選挙のたびごとに、「右派=自由主義」か「左派=平等主義」かを選択することになるのである。(P.55)

自由主義では、強いものに利益が集中してしまうという特質があります。本書の例では、学校のクラスにアメを配るときに自由に配ると、ガキ大将がアメを独占してしまうので、不平等になる。こういった場合には、先生が自由を制限しても強制的にアメを配ることで平等が保証されるとあります。同じ文脈で日本の政治家の世襲も問題にされていました。最後の皮肉が秀逸です。自由を極端に進める国(アメリカ)は、自由を極端に制限した体制(北朝鮮)とが同じように不平等になるとの見解です。
そもそも、民主主義の出発点である市民革命は、世襲支配を打ち倒す戦いだったはずである、親類縁者の中で議席が世襲されるのであれば、選挙などまったく意味を失ってしまう。...(略)... そう言えば、自由の国アメリカでも、大統領の地位が世襲された。たしか、北朝鮮も似たようなものだったように思う。(P.107)
日本の民主主義に欠けている平等を押し進める代表国として提示されるフランスは、多くのページを割いて説明されています。ストライキや学校でのスカーフ着用禁止について詳しく解説されてます。デモやストについては、フランスにいて普段感じていたことを言い当てられた感じがします。
フランスのデモやストは、しばしば、暴動や破壊活動のような事態にまで発展してしまう。...(略)... ただし、物を破壊して暴れることは許容されても、人間を標的とした暴力的な行為は、軽微な物でも絶対に許容されない。(P. 123)
また、下の言葉はストを行っている人のと、それに非難すること無く絶える市民の心境を正しく言い当てているように感じます。
しかも、公務員はスト権さえ認められていない日本とは逆に、フランスの場合、一番良くストをするのは、身分の安定した公務員なのだ。...(略)... 公務員が前面に立って戦わずして、民間零細企業の従業員が救われることは無いという訳である。(P.122)
本書を読むと、日本の政治はまだまだだと再認識させられます。日本の政治家は、国民のことを見ていないといわれますが、それは違います。政治家は有権者に選ばれることによって身分が保障されています。有権者の意見を聞きそびれた政治家は直ちに無職となってしまう訳で、かれらが有権者の方をよく見ています。有権者が政治に関心が無いことをよく知っていて、そのように振る舞っているのです。日本の政治を成熟させるのは有権者一人ひとりなのです。本書は、政治の議論を整理するのに有用です。多くの人が政治の議論について整理する機会を持てることを祈ります。
日本とフランス 二つの民主主義 (光文社新書)
薬師院 仁志 (著)

序章 日本型「自由」偏重民主主義
第1章 “左翼”が消えた日本
第2章 日本型「珍」民主主義とアメリカの影
第3章 日本型自由主義の死角
第4章 フランス型「非自由」民主主義
第5章 フランス型平等主義の限界
第6章 なぜ、フランスはかくも不自由を求めるのか

21世紀初頭の日本には、事実上、自由主義以外の選択肢が存在しない。程度や視点の違いはあれ、ともかくリベラル(自由主義)こそが民主主義だと言わんばかりの状況なのだ。極めて大雑把に言うならば、われわれの前には、アメリカ型の自由主義とフランス型の平等主義という二つの選択肢が存在する。少なくとも、存在するはずなのである。アメリカ型の自由主義については、その長所も短所も含めて、われわれは多くのことを知っている。だが、フランス型の平等主義に関する知識や情報は、必ずしも十分なものではないと思われる。知らないからこそ、選択肢として意識されないのだ。(序章より抜粋)

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