2008年5月15日

[書評] フランス反骨変人列伝

フランス反骨変人列伝 (集英社新書)
この本にはその時代の常識に逆らった人達が4人紹介されています。本の帯を見ると、「太陽王に妻を寝取られた侯爵の意地」、「時代の混乱に翻弄された栄光の軍人」、「詩を愛した殺人鬼」、「死刑反対を訴えた死刑執行人」となっています。どの人物も個性的でいろいろな物語に彩られた人生は興味深かったですが、順位を付けると後ろから順に面白かったです。「俗世間の価値観は移ろうものであるのに対し、世間に逆らって自分の価値観を貫いた人間には、どこか、時代を超えた普遍性がある。(P.3)」というのには、完全に納得です。ある時代に周りには気が狂ったとしか思えない行動をする人間が、後の世界の常識人だったりするケースがあります。

一番興味を引かれた最後の「死刑反対を訴えた死刑執行人」について書いていこうと思います。フランスの死刑執行人は世襲されていて、六代目のアンリ-クレマンはギロチンをおろすことを命令する職に対して、疑問を感じながら家業を継ぎます。死刑執行人は世間から不当に忌み嫌われていました。
死刑執行人に対する世間の態度はあまりに不当だ、とアンリ-クレマンには思われた。死刑判決に喝采し、処刑を見せ物にするために喜んで群がり集まってくるくせに、社会のために自分を犠牲にして職務を遂行している人間を恥辱で覆うとは、なんということだろう。(P.168)
この死刑執行人の家は代々、国家から支給される給与と、医者家業(死体を解剖したりして、人体に詳しくなるため)で裕福でした。しかし、六代目は立派に勤めを果たすことは出来ませんでした。先祖が200年にわたって築き上げた財産を、絵画やギャンブルや女に使って使い切ってしまいます。そして、一家の私有財産で仕事道具でもあるギロチンを質に入れてしまい、死刑執行人を罷免されます。その後、一族の悲哀に満ちた歴史と死刑制度に対する思いを『サンソン家回想録』を書き上げました。
六代目サンソンは、家門の名折れのはずが、サンソン家の大功労者ということになるだろう。しかも、『サンソン家回想録』には一家族の利害を超えた普遍的価値もある。...(略)...
一九八一年九月、この年の五月に大統領に当選したミッテランの下で死刑制度が廃止された。六代目サンソンの死後百年近くを経てのことではあるが、「文明の進歩にともなって死刑制度はいずれ廃止されることとなる」というアンリ-クレマンの予言は見事に的中したのである。(P.214)
常識をわきまえた人間ならば商売道具のギロチンを質に入れたりはしないだけでなく、そんな考えを抱くことも無いでしょう。その時代の常識と大きく違うある人物の中の信念が時代を超えて普遍的な価値になるのは興味深いです。
フランス反骨変人列伝 (集英社新書)
安達 正勝 (著)

第1章 モンテスパン侯爵
   「公式寵姫」制度
   戦場に届いた噂 ほか
第2章 ネー元帥の悲劇
   革命が栄光の道を開く
   新国王との出会い ほか)
第3章 犯罪者詩人、ラスネール
   パリ重罪裁判所法廷
   詩人に生まれた少年 ほか
第4章 六代目サンソン
   十五歳のときに家業を知る
   父との対話/死刑執行の前夜 ほか

フランスの歴史を注意深くひもとくと、正史にはめったに登場しない魅力的な奇人・変人に出会うことが出来る。国王、国家、法制度等への反逆であったり、その逆に忠誠であったりと、その逸脱した人生は様々だが、彼らに共通しているのは、自分自身の生き方に徹した反骨の精神である。そして、世間に逆らって自分を貫いた人間たちには、どこかしら時代を超えた普遍性が感じられる。本書は、その中でも極めつきの、それでいて日本ではほとんど紹介されていない四人の人物、モンテスパン侯爵、ネー元帥、犯罪者詩人ラスネール、死刑執行人・六代目サンソンを取り上げる。

0 comments:

コメントを投稿