2008年4月8日

State of Art:現在の技術水準


Paris, France
"State of Art"を書けって言うのが、こっちのボスの口癖みたいなモノで、顔を合わすと「"State of Art"の更新はまだか〜」みたいなことを言ってます。日本にいた頃はこの言葉を聞いたことはあれど、あまり書く練習をしてなかったり、なぜこれを書かなければならないかなど、あまり理解してませんでした。"State of Art"は「現在の技術水準」と訳すべきモノで、簡単に言うと技術動向をまとめるだけですが、重要性が分かって来たのでこのエントリーでまとめたいと思います。

まず、フランスと日本の違いを分析する前に、同じように日本の先輩たちの口癖をまとめます。それは、「研究の目的は何?何がしたいの?」です。僕は日本で学士、修士で日本の教授に研究を教わっているので、この問いの重要性は十分認知しています。研究の目的を的確に論文の冒頭に記述することができれば、読者がより良く論文を理解してくれます。

では、"State of Art"は何のため?ただ進捗を確認したいだけ?最初はそう思ってました。研究の目的の方が重要で、技術動向は頭に入っていれば十分だろうと。ただこの考え方は根本から間違っていたようです。フランスの大学の先輩の博士論文や研究計画をたくさん読むうちに分かってきました。それは、日本とフランスの学術論文の論理の構成の仕方に原因があります。日本の学術論文は流れにすると、
日本方式:
研究の目的を述べる→先行研究では不十分であることを示す→問題点を分析→解決法を提示→解決法が有効であることを証明
となります。それに対しフランスの学術論文では、
フランス方式:
技術動向(State of Art)を記述→技術の改善の方向性を述べる→問題点を分析→解決法を提示→解決法が有効であることを証明
となります。これだけだと、「研究の目的」と「技術の改善」はほぼ一緒で、「先行研究」と「技術動向」はほぼ一緒なので、最初の2ステップがひっくり返ってるだけだと考えるでしょう。でも、これだけで論理の作り方が全く異なります。なぜなら、日本方式では「私(主観)が何を研究目的にするか」を語るのに対し、フランス方式では「技術動向からして(客観的に)このように技術を改善すべき」と述べなければなりません。つまり、日本では「で、あなたの研究の目的は何?」と問われるのに対し、フランスでは「で、客観的に見てどのように技術を改善すべき?」と問われるということです。

さて違いが分かったところで、どちらがより素晴らしい論文なんでしょう。というのは結論からすると、読者によると言うしかありません。日本方式で教育を受けた研究者は、研究の目的を頭に入れてから論文を読んだ方が分かりやすく、フランス方式の研究者には、技術の改善を客観的に語ってくれないと納得できないというだけです。実は、僕も冒頭に"State of Art"がある論文を呼んでいる最中に「だから研究の目的は何?技術動向ばっかりで、執筆者のやりたいことが分からない」とか考えてイライラしていたりしました。同じようにフランス人が、研究の目的が冒頭に主観的に書かれた日本方式の論文を読むと不安になったりするのでしょう。

伝わりやすい論文が読み手の好みや、受けて来た教育によるとすると、論文を執筆する人はどちらの方式もマスターすることが肝要です。どちらの方式も一長一短があるので、読み手や状況によって使い分ける必要が出てくるのです。自分の論理を読み手に伝えるのは研究者の重要な仕事の一つで、そのための日本・フランス方式は道具のようなモノです。ステーキを食べるのにはナイフとフォークを使い、天ぷらを食べるには箸を使うというのと同じです。箸しか使えない者はステーキを食べるのに苦労するはずです。

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