2008年4月29日

正論を主張する国「イラク戦争に反対したフランス」


Paris, France
2003年2月14日当時、世界はイラク問題で揺れていました。アメリカが同時多発テロで攻撃され、それを支援したと見られるフセイン大統領が大量破壊兵器を隠し持っているかもしれないという疑念でした。これに対して、大きく2つの解決方法が提案されていました。1)[対話案] 国連の査察団による調査を経てフセイン政権の武装解除、2)[対決案] 戦争によるフセイン政権の打倒の後、民主政権の樹立。フランスが前者、アメリカが後者の立場でした。問題はどちらの方が好ましい成果を上げるかどうかです。

アメリカが本気で戦争をしたらイラクの政権を打倒することは容易いことは、誰の目にも明らかでした。アメリカは、戦争に反対するフランスに対して、「臆病者」「アメリカに歯向かっている姿に酔っているだけ」、「特別な国でありたい幻想を抱いている」とさんざんな非難を続けました。イギリス、アメリカの英語のニュースが伝わりやすい傾向のある日本でも、同じような報道がなされていました。

最も典型的だったのは、ラムズフェルド国防長官による「古いヨーロッパ」発言だったでしょう。テロとの対決には通常の戦争のルールが必要ないという先制攻撃論を発明して、新しい秩序の建設を叫んだのです。アメリカに賛同するヨーロッパを新しいヨーロッパと呼び、反対するフランスを古いヨーロッパと呼びました。古いヨーロッパとは、古くさい迷信に惑わされている国と言うニュアンスだったのでしょう。それに対しフランスは、国連安全保障理事会の演説で反撃に出ます。この演説は、「国連安全保障理事会:ヴィルパン外相の演説」にまとめてあります。

演説を貫く精神としては、武力によって敵対する勢力を葬っても宗教や民族といった対立をひき起こせば、長い目で見れば世界を不安定化してしまい、先進国と途上国どちらにとってもいい結果にならないのではないかという疑念です。無力感を募らせた人々は、自爆テロなどの過激な手段で対抗する可能性が指摘され、後に現実のものとなりました。フランスはこの演説でこのように述べています。
早まった武力行使は深刻な結果をもたらすリスクがある。
1. 我々の行動の正当性は、国際社会の結束にかかっている。早まった軍事介入はこの結束に疑いをもたらし、ひいては介入の正当性、いずれはその効果をも失わせる。
2. かかる軍事介入は、すでに傷つき脆弱なこの地域の安定に、計り知れない深刻な結果をもたらすだろう。不正義に対する感情を増幅し、緊張を深刻化させ、さらなる紛争の引き金になりかねない。
アメリカの戦争論を採用した結果、フランスの指摘は不幸にして当たってしまったように思われます。フランスには、過去2回もヨーロッパ大陸で起こった大戦と、植民地支配が失敗に終わった経験から、戦争による被害と、民族と宗教の対立の根の深さを学んだという自負があったのです。この自負が、下の演説のフレーズを生み出したのだと思われます。アメリカからの批判であったはずの「古いヨーロッパ」発言をプラスに捉えた、会心の反撃だったと感じます。

国連という殿堂において、我々は理想と良心の守護者である。我々の担う重い責任と多大な名誉が、我々に平和的な武装解除を優先させるはずである。これが、戦争と占領と蛮行を経験したヨーロッパという「古い大陸」の「古い国」、フランスのメッセージだ。

フランスが正論を主張するときには、それがたとえ他国には自国の利益を優先させる行為に映ったとしても、そこには耳を傾けるに足る論理が入っていると感じます。これが、経済や人口では中小国に転落したフランスが国際社会で大きなプレイヤーを演じる秘訣だと思います。

関連:国連安全保障理事会:ヴィルパン外相の演説

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