2009年9月23日

美しい論理の裏に国益を潜ませるフランス


Gordes, France
怠け者同盟の社会と働き者の社会の間の競争の中のフランス このエントリーを含むはてなブックマーク」では、「フランスが反論のしようのない美しい論理を構築するときは、多くの場合その背後にフランスの国益が潜んでいます。その点が、フランスのしたたかさであり、世界の国々に警戒されている点でもあります。」と書きましたが、思いもつかなかったの論理を見つけたので紹介します。それがこれです。
asahi.com(朝日新聞社):GDP算出に「幸福度」を加味 フランス大統領が提案
経済フォーカス:大切なものを測る尺度 GDPだけで豊かさは測れない JBpress(日本ビジネスプレス)
ニコラ・サルコジ仏大統領は先日、GDPの計算方法を見直し、長期休暇や環境への貢献などの 「幸福度」を加えるべきだと提案した

怠け者同盟の社会を実現する論理

グローバルな世界において、怠け者同盟の社会を実現する手法として「怠け者同盟の社会が働き者の社会に対抗する手段 このエントリーを含むはてなブックマーク」では同盟の拡大と同盟をつなぐ論理の構築を挙げました。同盟の拡大の例としてはEUの拡大を挙げましたが、論理の構築の方では、主に人権の拡張を説明しました。つまり、怠け者同盟の社会を進めていくために、発展途上国の未成年の不当労働、過労死や過剰労働による鬱などを槍玉にあげ、これらが人間の基本的人権を踏みにじっていると主張すると予想しました。今のフランスの傾向を分析して、今後もそれ以外に手が無いと考えたからです。でも、フランスは僕の想像を超えたようです。

否定し難い論理を利用するフランス

なんとGDPの算出方法を変更してきました。これが実現すれば、怠け者同盟の社会を実現して、競争を抑制してもグローバルな経済競争に負けることは無くなります。何しろ働いていない分も人生の幸福に貢献する使い方をすれば、数値が増加するからです。JBpress(日本ビジネスプレス)によると、「昨年サルコジ氏が任命した委員会――5人のノーベル経済学賞受賞者を含む計25人の著名社会科学者で構成――が、その研究成果(英語、292ページ)を発表した。」とあります。権威付けもなかなかですね。

フランスもすぐにはこの指標が世界標準になるとは思ってないでしょうが、もし進捗があればフランスは提唱者としての地位も確保しつつ、世界がフランスの思う方向に進むと考えているはずです。GDPが人々の暮らしの善し悪しを評価していないと言うのは定説になりつつあるので、妥当なラインを突いてきたと言うことでしょう。もし指標の標準化に失敗しても、フランスは目指す世界を世界にアピールできます。「世界に理念を波及させる国、フランス(参照)」としては、世界に自分たちの考え方を分かってもらえるだけでも国益になるのです。

否定するのは難しく、権威付けも整えて、したたかにも論理の裏に国益を忍ばせてあり、失敗しても利益になる外交テクニックは、見事と言うしかありません。

その他

自由競争に熱心なアングロサクソンの一員の英エコノミスト誌はちょっと突き放して書いているところが面白いですね。きっとフランスの唱える論理の裏側にフランスの国益を見透かしているのでしょう。
もう1つのリスクは、計測方法の拡散は利益集団への贈り物になり得ることだ。というのは、国の富の取り分を増やすために、自らの窮状を強調するような数値を好きに選べるようになるからだ。とはいえ、今はまだ初期段階だ。まずは、いろいろ測ってみたらいい。JBpress(日本ビジネスプレス)
こちらも面白いです→世界級ライフスタイルのつくり方 - 「幸福度」をGDP算出に

関連:
怠け者同盟の社会のまとめ

3 comments:

MILIA639 さんのコメント...

いつも興味深く読ませていただいてます。

お金以外の数値を可視化する技術と社会システムが、それだけ整いつつあると言うことなのでしょうね。ブータンの例など含め、様々な指標が乱立していく中で、何が幸福なのかの各々の(国家でも個人でも)考え方の違いを比較できるとおもしろいと思います。
何を幸福と考えるかの多様性をいかにあらわせるかが、個人的には興味のあるところです。

と、同時に、こうした数値化が進んだときに、定量化できない/測定できない/形式知化できない幸せは、幸せと見なされなくなったりしたら息苦しい社会だなあとも思います。
突き詰めると「金だけが幸せじゃない」という類の言い方が通用しなくなるわけで。

ところで、研究成果のリンク先を読んでいないので良く分からないのですが、GDP算出方法に組み込むってことは、けっきょく幸福度を金額に換算すると言うことなのでしょうかね?
だとすると、ブラックジョークとしては、将来「幸福度」が金融商品として取り扱われる可能性大ですね。
「あなたは将来、これだけ幸福になれるはずですから、これだけのお金を融資します。このお金を元手に、あなたはますます幸福になれる可能性が高まりますから、返済は容易ですよ」とかなんとか(笑)

Shin さんのコメント...

経済指標は経済指標として必要だからGDPに存在意義があるわけですから、これに新たな要素を組み込むのは、
経済指標としての利便性を減じる以上、GNP→GDPへの主要指標の交代時のような普及は厳しいでしょうね。

元々、GDPはあくまで経済指標であって、PPP換算1人当たりGDPのような経済指標をあえて誇るような向きは、
「経済的豊かさと人々の幸福に強い相関がある」という仮定を前提とするわけで、そのような偏った見方は
公の場では、あまり相手にされてないというのが私の認識です。
ただ、幸福度を計るなら、ブータンのGHPのような試みや、人間力開発指数のような国連採用指標がこれまでも
あったのに、なかなか庶民レベルまでは膾炙しなかったのが実態なわけで。
その実態を踏まえた上で、GDPという知名度の高い指標を標的に、経済万能でも、反近代でもない
「経済と幸福に相関はあるにしても・・・」
という中庸な方向でアピールするのはなかなか面白い戦略ですね。
「なんで経済指標に余計なものを・・・」
とか言う反論は当然想定した上でやっていそうなところもしたたかなところで、「幸福追求」の価値観
問題にとどまらず「持続性」のような経済的に問題となっている点をきちんと取り込んで、経済学
サイドからも相手にせざるを得ない内容としているところが流石です。PR戦略としてやっているのか、
本気で検討したらこうなったのか(実態は両者不可分といったところ?)
分かりませんが、
我が国の排出25%削減提唱のような自国の経済的不利益を伴うリスクなしに、うまくいけば尊敬を
勝ち得るという布石。流石の企画力です。どうも外交力においては、日本に比して「一世紀の長」くらいの
差はありそうですw

Madeleine Sophie さんのコメント...

MILIA639 さん

> 何を幸福と考えるかの多様性をいかにあらわせるかが、個人的には興味のあるところです。
そうですね。イスラム教でお酒を飲まない人や断食する人、そういった文化を持つ人が西洋の枠組みで幸せじゃないと言われたら納得しないでしょうね。

> だとすると、ブラックジョークとしては、将来「幸福度」が金融商品として取り扱われる可能性大ですね。
お金以外を評価基準にしたつもりが、幸福がお金換算できてしまう社会ができてしまうわけですね... 「お金はないけど幸せ」なんて言いようが不可能になってしまう世界。あり得ないですね...

Shinさん、
> 経済指標としての利便性を減じる以上、GNP→GDPへの主要指標の交代時のような普及は厳しいでしょうね。

> PR戦略としてやっているのか、本気で検討したらこうなったのか(実態は両者不可分といったところ?)分かりませんが、
真顔で新しいことを提案しているフランスの背景にある狙いは、確かに分かりませんね。

> 我が国の排出25%削減提唱のような自国の経済的不利益を伴うリスクなしに、うまくいけば尊敬を勝ち得るという布石。流石の企画力です。
たしかに大したコストがかかっていないのにも関わらず、見栄えがする提案というのは、ことは驚くべきことですね。

「否定するのは難しく、権威付けも整えて、したたかにも論理の裏に国益を忍ばせてあり、失敗しても利益になる外交テクニックは、見事と言うしかありません。」

「大してコストはかけず、否定するのは難しく、権威付けも整えて、したたかにも論理の裏に国益を忍ばせてあり、失敗しても利益になる外交テクニックは、見事と言うしかありません。」

って感じですね。

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